(義母の新聞投稿より)
縦2m、横1.25mの大きな掛雛(かけびな)が、今我が家の床の間を飾っています。
これは明治33年生まれの亡き母の初雛ですから、何と90年になります。でも軸がほんの
少し虫が食っているだけで、押し絵の人形には少しのいたみもなく見事なものです。
上段の背景には三保の松原や富士山が描かれていて、海には白帆が浮かんでいます。
大きな一対の内裏(だいり)雛を左右に中央には小型の立雛の押し絵人形をさしこむよう
になっています。下段は義経千本桜道行の図で鼓を抱えた静御前と別れを惜しむ義経、
親狐(ぎつね)の鼓の音を慕って現れた忠信の人形を満開の桜の背景にさしこみます。
この大きな母の掛雛を田舎の蔵から出して来て、私の初雛と一緒に飾ったのは昭和52
年でした。その時「年とらぬお雛様」と題して「ひととき」欄に載りましたのでよく覚えていま
す。その母も逝き、子らも帰らず、以来しまいっぱなしでしたが、今年ふと思いついて出し
てみましたが、あれからも全く年をとっていませんでした。・・・中略・・・
亡き母の形見のこの雛を大切に子孫に伝えていきたいと思っています。
(平成2年投稿) |