亀の湯


(屋号も暖簾もなんにもない、照明のみ)

aqua.gif (191 バイト) 場所 茨城交通 那珂湊駅 徒歩15分

屋号がどこにも無い銭湯っつーのもなあ…これまた驚愕。大驚愕。

港町っつーのはだいたい濃い銭湯が多い。っつーわけで足を伸ばして、那珂湊の銭湯へ。電話帳には谷田部新一郎とあるっす。電話で営業時間を聞くと10時まで、不定休っつーこと。

で、この那珂湊が…勝田からディーゼルなんだけど、これまた一時間に一本くらいしか出ていないっす。ただでさえ常磐線はあまり電車ないんだけど…たどりつくまでがまあ大変。さらに帰りの足も考えねば。しかしまあ、ここまでしてわざわざ銭湯に行くとは…ヘンな人間である。那珂湊の駅がこれまた凄く、なんか骨董品的な「駅グッズ」があちこちに放置してある…車輪まであるぞ!と思ったら、実はこれは販売中らしい。車輪が15000円だと。きっと鉄ちゃんには有名な駅なのかもしれんなあ。


(超ローカル線)

(那珂湊駅)

(グッズ販売中)

那珂湊駅を降りると、まだ7時を少し回ったばっかりなのに、ほとんどゴーストタウンの雰囲気。うむ〜、いったいこの町は。とりあえず徒歩で漁港方面に15分ほど、imapfunが、これまたズバリ家屋番号までピンポイントで示してくれるんだよなあ。が、それらしきものは…あ、煙突発見。

で、この銭湯…凄すぎる。あっしは銭湯マニアだから、「銭湯型煙突&建築」を見て一目で銭湯と分かるのだが…木造のボロ建築。しかも…看板も何も出てないぞ!暖簾さえもないっす。普通の人間なら、この建物がなんだか分かるまいなあ。建物のセンターに少し飛び出た湯気抜きはまぎれもなく銭湯だが…とりあえず、戸が二つ。むろんマニアにとっては、これが銭湯入り口であることは明白だが…はて、どっちが男だろう?何も書いていない。困った。


(後方から、湯気抜きがわずかに見える)

と、片方の戸の上に、鉛筆だかマジックだか知らんが「女」と下手くそな字が書いてある。っつーことはこっちが男か。ガラっと開けると土間に番台。番台がこれまた低く、女湯見えそう。うむ〜、中に入るが…これはすんごい雰囲気。むろん下足入れなんぞないので、土間にそのまま靴を脱ぐ。

番台にかなりの先輩のお姐様、70以上は明らかだが、もしかして80超えてるかもなあ。背中の曲がり具合が凄いっす。で、500円玉を渡すと…「170円だから330円ね」え?え?え?どういうこっちゃ?入浴料金170円?いくらボロ銭湯とはいえ、どういうこっちゃ?が、とりあえず郷に入れば郷に従え、黙って釣りを受け取る。

さて、この脱衣場がまたソーゼツであるっす。木の天井だが…なんっつーか、「漁師小屋」がそのまま銭湯になったような建物。剥き出しのゴッツイ木。ロッカーなんぞあるわけない、木の棚にずらりと常連桶がならぶ。アナログ体重計、丸籠が積まれているっす。なにより、脱衣場には裸の白熱灯がぶら下がっているだけっす。


(まさしく漁師小屋的銭湯、傘はあっしの)

壁を見ると、茨城の銭湯料金表、ああ、一応組合加盟の銭湯か…あ?料金表が「大人150円、洗髪20円」なるほどこれなら170円だが…でも、この料金表、平成元年のものだぞ。平成から値上げしてないの?この銭湯。茨城は銭湯料金まちまちだなあ。なんつーても県庁所在地に銭湯がないのは、この県くらいではないだろうか?でも、平成元年って銭湯料金安かったんだなあ。一般の物価は平成の間、おそらくほとんど変化してないだろうけど、銭湯だけは随分上がったんだなあ。

さあ、浴室だ。なにしろ脱衣場から浴室へのドアが木の戸。恐る恐る開けて…この浴室がまたすんごい。沖縄も凄かったが、ここも負けず劣らずだぞ。完全木造建築、本当に「小屋」のような建物。センターに湯気抜きだが、ここに丸太のような木が通っているっす。で、浴室の床も完全にフラット。奥に一槽の浴槽があって、あとはカランが6個ほど壁から突き出ているっす。タイルは相当に傷んでいて、補修だらけ。

とりあえず積んでるケロリン桶を持ってカラン前へ。桶を椅子にして陣取る。っつーても、完全にフラットな床、「置き段」もなにもないので、道具をどこに置くべか?ケロリン桶をもう一個持って、この中に入れることにするっす。

で、カランは…一見まともな、円形のカラン。が、押してみるとまともでなかった…湯の方は激熱。で、水のカランを押すとこれが戻らないっす。手で引っ張ってしばらくたつと水が止まる。湯量はちょぼちょぼなんで、温度調整にコツがいるっす。もちろん、シャワーなんぞ気の効いたものはないっす。大事に大事にお湯を使う。男女の境は…木の板っす…これもすごい。しかも低い。

こんな銭湯にも、な、なんと壁画ありっす。これがまた…奥の壁、要するに板なんだけど、この上に直に書いたペンキ絵。素人の書いたような絵、一応富士山らしい。下は渓流。でもまあ、板の上に直に書かれているんで、これまたすんごい雰囲気。女湯も富士山のようだ…ツインピークスか。

さて、浴槽へ行こう。この浴槽がまた、そっけない1槽だが、湯が半分くらいしか張っていないっす。で、これがなかなか熱い。44度くらい。少し濁っているんだけど、この濁りはなんの濁り?が、入ってみると、これまたなかなか気色がよいっす。なんでだろううか?妙にB級の安らぎ。

この浴室、センターから裸電球がぶら下がっているだけっす。しかも、鎌倉の滝の湯のように、多少パワーのある電球でなくって、昔の便所に下げてあったような弱弱しい裸電球。でも、この裸電球がなんとなく温かみがあって、安らぐ。それにしてもすんごいなあ。こんなところまで来るあっしもすんごい…

上がりは…むろんドリンクなんぞはないっす。さて、この銭湯、屋号はなんて言うんだろうか?看板なぞなかったし、どこにもそれらしいものがない。普通はどこかに書いてあるはずだが…どこにもない。屋号なんっつーんだ!番台のお姐さんに聞こうと思ったが、なんと誰もいない…仕方ないので、そのまま銭湯を出る。

が、それでもどうも気になって、後で電話して屋号を聞いてみる。

「何ていうんですか?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「いや、さっき入ったんだけど、どこにも 書いてなかったんで気になって…」

お姐様、客と分かって急に豹変、「亀の湯っていうのよ、鶴亀の亀。最近の若い人はそういうの知らないだろうけどねえ、万年続くように、という意味でね」なるほど。で、このお姐様がノってきて、なかなか話をやめようとしない。うむ〜、もうちょっと銭湯で話してくれば良かったかな?どうも地場系の銭湯では、よそ者が図々しくあれこれ詮索するのも何だなあ、と思って黙っていることが多いが、銭湯の人って結構話好き多いんすよねえ。っつーわけで、驚愕の「ボロ銭」だ!一度は行ってみたほうがいいぞ、マニアは。

で、その後の飲みは…なんと那珂湊のメインストリート、店が全然営業していないっす。せっかく港町だしなあ。そもそも次の汽車まで1時間…やっと営業している店を見つけたら、これが寿司屋。うむ〜、どうしようかな。幾ら取られるかなあ。まあ、他に店もないんで入ってみよう。中に入ると一応家庭的だが、なかなかの寿司屋。これまたメニューもなんにもない。こういう時は基本注文だろうなあ、と握りと燗酒を頼む。寿司は…うまかったよ。さすがに港町。ついつい酒を追加して少しゆっくり飲む。おそるおそる勘定を聞いてみると…なんと2300円。酒2本頼んだんだが…これはいい。っつーわけで今日も「当たり」だったぞ!

(2001年11月)