えびす湯

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aqua.gif (191 バイト) 場所 JR倉敷駅 徒歩5分

目をつけていた倉敷「えびす湯」へ。ここは…ああ銭湯、こりゃ銭湯。本当に銭湯。豪華さのかけらもない、本当に家庭風呂の延長銭湯っす。営業時間は16時から22時まで。

まず、完全木造つくり。正面の大きな「ゆ」牛乳石鹸の暖簾はいいのだが、ここはなんと!入り口からして男女分かれているのである。なので暖簾に「男湯」「女湯」と書いてある。入ったらすぐセンターに番台。なぜ暖簾が巨大かわかったっす。ここはいきなり脱衣場なのである。暖簾が無いと通りから脱衣場まる見え。こんな作りの銭湯ないぞ。

入り口はいきなり土間。雨が降っていたんだが…傘置き…傘ロッカーなんぞあるわけない。円形のぐるぐる傘置きが置いてある。靴箱もなんとなく鍵つきロッカーらしきものもあるが、誰も使ってない。だってさあ、これらのものが全て一つのスペース内にあるんだもんな。とりあえず靴は土間にそのまま脱ぎ捨てる。

こんな銭湯でも豆石鹸、シャンプー、リンスがある。脱衣ロッカーは…これが超レトロ。大きな数字が「十」だの「壱」だの扉に書いてあるっす。ひゃー。ロッカーの上には映画館と演歌歌手のポスター。ああ渋すぎ。しかもだ!身長計があるぞ!ってこれがスライドするのでなく「柱のキズ」 方式の身長計である。ああ…

しかもだ、便所に行こうとすると、これが「ウエスタンスタイル」。すなわち、上と下に隙間がある、あの「ドア」である。たまげるぜ!

早速小さな風呂に突入。小さな旅館の風呂のようである。しかしこれが…古い。…あの…もしかして…これって…「戦前」のつくりでないの?倉敷って空襲なかったのか?

なんと言ったら良いのか…秘湯系のつくり、というと大げさである。とにかくあまり見ないが、かつての「アジアのニッポン」というような風呂の作りである。うまく説明できないのだが…とにかく、そんな戦前のつくりの銭湯が、今もフツーに営業中。

カランが7個…このカランがまたすごい。単なる「金属のボタン」が水圧で押さえられているようなもので…シャワーなんかあるわけない。一応水とお湯があり、押すと出るのだが…押すとボタンの隙間からお湯が噴出するっす。しかもこのお湯が劇熱い。熱湯だ。やけどするぞ!

タオルで手をくるみながら熱湯カランを押す。水とミックスしながら好みの温度にするのだが、お湯があまりにも熱いため水を「ジャー」と出して、お湯を「ジャッ」と出してもまだ熱い。上手にミックスして、大事にお湯をつかう。うむ〜、大昔こんな時代もあったような。

しかも、この洗い場が凄い。なにが凄いかというと…床が石造りである。しかも大理石とか、そんな立派なのでなく、道に埋め込んであるようなアノ石である。ご丁寧に、1メートルおきくらいに溝が掘ってあって、ここを水が流れるようになっている。まさに石の風呂である。

手間をかけてお湯を使って、やっと身体と髪を洗い、さて湯船へ。この浴槽がまた「石の風呂」である。深い。お湯も超熱いかと思ったらおそらく43度くらい。ちょうどいい。不思議な風情だ。洗い場の片隅にはタイルの流しがある。風呂に入っているのは見事に爺さんばかり。 いやしかし、こんな素朴な「石風呂」も悪くない。料金は岡山の組合料金で入湯310円、洗髪40円の計350円。

風呂を上がってもう一度脱衣場を見ると…扇風機の横にはウチワがいくつも立ててある。ハンドル式のマッサージ機もあるが、なんとアルミのプレートにご丁寧に 「自動マッサージ機」と書いてる超旧式のものである。天然記念物かよ。なにより、コンセントのコードの先が「丸い」。長方形の深い籠がいくつか。そしてあのレトロ長いす。爺さんが長いすで白シャツ&ステテコで方言で世間ハナシ。 灰皿はもちろんステンレスの丸灰皿。

そしてそしてだ!ドリンクはなんと、あの「アイスクリーム冷凍庫」のような、横長上面スライド方式冷蔵庫に、しっかりラムネ群。あとオロナミンCと、スマッシュとかいう訳の分からん乳飲料が入っている。これは王冠栓抜き方式。冷蔵庫にはしっかり「グリコ」と書いてある。でもグリコ製品は一つも無いようだ。

はっきりいって、東京にも大阪にも「こんな銭湯ない」っす。昔はこれが日常だったのだろう。でも歴史を超えて「今も日常」。不便で仕方ないが、「人の世」を考えさせるレトロな銭湯っす。

いやしかし…凄いぞ、ここは、ホントに。

(1999年9月)