現在のポイント・システムは必ずしも新しいものではない。

活字のボディーの大きさを計測する単位として、ポイントが伝統的に用いられてきた。1ポイントが実際にどれだけの大きさに相当するかは、標準的な尺度との相対的な関係を規定するポイント・システムによって決まる。そして、これまで複数の異なるポイント・システムが世界で用いられてきた。

多様なポイント・システムも、次のように分類によって、それらがどのように異なり、どのような共通の特徴を持っているかを知ることができる。

分類1 計測対象は何か

  1. 活字のボディーの大きさを計測するポイント・システム
  2. 活字のボディーの大きさ以外の、特に文字図形の特徴的な形態要素(例えば、大文字や小文字の高さ)の大きさを計測するポイント・システム

a.に分類されるポイント・システムは、さらに下記の方法で分類可能。

分類2 フルニエのボディーの大きさの分割方法に基づいているか

  1. 1 ptが1:72の関係で既存の標準的な尺度単位と対応するポイント・システム
  2. a.があてはまらないポイント・システム

分類1で、b.に分類されるポイント・システムは、例としては、Ernest HochやSéamasとBrógáinの提案が含まれる。この方法は、a.に分類される伝統的なポイント・システムに比較して、いくつかの重要な長所・短所を有するが、必ずしも現在広く用いられているとはいえない。

伝統的に用いられてきたポイント・システムの多くが、上記分類1ではa.に属し、分類2でもa.に属する。その中には、フルニエのポイント・システムの提案、ディドー・ポイント、Nelson C. Hawksの提案、アメリカン・ポイント・システム、現代のコンピュータやプリンターで用いられている1 pt = 1 / 72 インチのポイント・システム(以後、「現在のポイント・システム」と呼ぶ)などが、すべてこの、分類1がa.で分類2でもa.のものに相当する。

ただし、Nelson C. Hawksの提案は、現在のコンピュータやプリンターで用いられている1 pt = 1 / 72 インチのポイント・システムとまったく同じものであった。この点はきわめて重要である。

アメリカン・ポイント・システムがNelson C. Hawksの提案と同じにならなかった背景には、既存の鋳型を作り直すことを避けようとした米国の活字業者が、当時もっとも広く用いられていたマッケラー・スミスズ・アンド・ジョーダン社製のパイカのボディーをポイント・システムの基準となるサイズに決めたことがある。その打算がなければ、本来、Nelson C. Hawksの提案がアメリカン・ポイント・システムになるはずのものであったと言えなくもない。少なくともNelson C. Hawksは1880年には、1 ptを正確に1インチの1 / 72すべきと主張していた(Hopkins, Richard L. Origin of The American Point System for Printers' Type Measurement, Hill & Dale Private Press, Terra Alta 1976)。

そのように考えると、Nelson C. Hawksが提唱したものと同じ現在のポイント・システムは、決して新しいものではなく、基準となるサイズを分割する方法としては、フルニエのポイントと同じであって、長い伝統に根ざしている。そして、米国のインチを基準としたポイント・システムとしても、1870年代に既に提唱されていたものと同じなのである。

これに関連して、大曲都市氏が次のように語っている「たしかに、ポイント制は伝統的な体系だ。しかし、現在私達が使っているDTPポイントは33年前に始まったもので、それに切り替わったのは比較的最近のことだ」。* しかし、上に述べた理由から、私はこの考えに懐疑的である。

* 原文からの引用と出典は以下のとおり。 "Yes, the point is a traditional system, but the DTP point that we are using is only 33 years old and we have experienced the change relatively recently." Omagari, Toshi. p.18, "What's the point?", 365 Typo: 365 stories on type, typography and graphic design, etapes: editions, Paris 2015.

現在広く使われている1 pt = 英米における1インチのポイント・システムもまた、他の多くのポイント・システムと同様に、必ずしも新しいものではなく、活字ボディーの大きさを計測する方法の標準化の長い歴史と伝統に根差していると、私は考える。そして、それは現在も利用され続けている。

では、現在のポイント・システムが永遠に使われ続けるのだろうか。それは言えない。大曲氏が上記の記事で主張しているように、メートル制は、世界標準として広く用いられている。その意味で、メートル制の単位を活字ボディーの大きさを計測に用いたり、メートル制と単純な対応関係にある単位系(例えば日本の写真植字機におけるQまたはH)を用いることには、利点がある。この利点が高く評価されれば、10年後には、状況は変化しているかもしれない。メートル制が全面的に利用されている可能性がないとは誰にも言えない。

とはいえ、現在使われているポイント・システムの有効性もまた否定することができない。そして未来を予測することは困難である。

メートル制であるかを問わず、新しいポイント・システムを採用する場合には、それが活字のボディーの大きさを計測対象とし続ける限り、その方法の利点が、慣れ親しんだ計測単位を変えることの負担に見合うものであるかどうかが、重要な鍵となる。そして、どのような方法が採用されようと、活字のボディーの大きさを計測するさまざまな方法と単位が、歴史的に使われてきた事実は変わらない。現在でも、世界中では複数のポイント・システムが用いられているのが現実である。したがって、文字の形状表現を取り扱うアプリケーションは、多様なポイント・システムに対応する必要があるという考え自体はまったく正しい。

 

11/14/2015 Taro Yamamoto