9話  「裏目」にでる

 裏目にでる、という経験はたれにでもある。

「意に反して」とか「こと志と違い」というような言葉と違い、多少「後ろめたい」動機や、こころざしとしては「低い」気持ちのときに使うことが多い。

 めずらしく早いご帰還がつづくオヤジは「家族サービス」を標榜しているにもかかわらず、カミさんや子供達からは「週末の釣り」のためのミエミエの布石と見破られて、かえって侮られたりする。

「ただ今、常務がおっしゃったように・・・」とか、「まさに局長のお考えのとおり・・・」などと、会議の席で必ず上司の立場をたてるやうな「まくらことば」を使う奴がいるが、こういった追従はだいたい裏目に出て、主体的でないとか、こばん鮫的であるとか、ばかだとかの評価しか受けないものである。

 以前、あるロックグループのコンサートに招待されて出かけたことがある。こういうときは、すぐ席をたてるように、なるべく端っこの後ろよりに坐って開演を待つことにしている。この日、ステージ正面には、多分テレビ局やスポンサーなど、小生の働いている弱小広告会社よりず〜っと「偉い」方々のための招待席がしつらえてあった。売れ始めたばかりのグループである。プロモーションにやっきとなっている事務所側が気をきかせたつもりだったのだろうが、はたして、開演ぎりぎりになって、身分いやしからぬ禿げたオヤジや、キンキラに飾りたてた太ったおばさんたちがドヤドヤとやってきて席に着いた。

「さて、楽しみな」

 席でビールを飲んでいた小生と同僚ふたりは、そこで席を立って会場の後部ドアまで後退した。会場は一般客でほぼ満員だ。圧倒的に若い女性が多い。それは当然だ。ビジュアル系がウリのロックバンドである。

 BOSEの音響システムから鼓膜を突き破るやうなオープニングサウンドが響いた瞬間に、客席総立ちのスタンディングになった。会場全体が大絶叫大会、阿鼻叫喚、修羅の巷と化したのである。予想通りだ。

 ステージ正面のご招待客席は、林立し嬌声をあげ続ける若者達の群のなかに埋没してしまった。オヤジやオバさんたちは、もう逃げられない。かといって立ち上がって、手を「きちがい」のように振り回すわけにもいかない。(不適切な表現がありましたが、気にしないでください)

 プロダクション側の接待心が、「裏目」にでたのである。

 このグループは、たぶんそのためではないだろうが、しばらくして消えた。

 今日はちょっとしたヤボ用があり、仕事はやすみ。「釣りにいくのか?」と上司や同僚には聞かれた(疑われた)が、そうではないので雨が降ってもなんらかまわぬ、と思っていたら、裏目に出て晴れた。こうでなくては。人間、素直と正直が一番である。


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