209話 この千年紀

「とーちゃん、この1000年で一番に挙げられる政治家って、誰か分かる?」
 息子が新聞をみながら聞いた。
「うむ、わが国ならば元侵略軍を打ち払った北条時宗。異国ならば、まあナポレオンあたりだろうな」
「ちがうね。一番は、坂本龍馬だって」
「え?竜馬は政治家じゃなかろう。それに竜馬のランキングが高いのは、たぶん小説やテレビの影響だぜ」
「うん、そう書いてある。司馬遼太郎の竜馬像だろうって。でも、政治家の分類になってるよ」
「・・・」

 確かに竜馬には、政経済民への深い志はあっただろう。彼は、欧米列強のあからさまな侵攻に対抗する能力も意思も持ちえなかった徳川幕府を倒して、新しい日本を作ろうという情熱家であり、そして冷静なプランナーでもあった。しかし、竜馬は政治家ではなく革命家だ。「政治家」の冠を被せたら怒るにちがいない。

 同じ理由で、西郷隆盛も教師であり革命家であり求道のひとであった。そういう人たちが、政治を考え、また政治の場に立ったということだ。

 維新革命を戦い抜いた人たちは、やがて凶刃に倒れ、あるいは廟堂を追われた。彼らが野に隠れ、地に帰ったあと、この国の政治を担った人たちは、明治から大正へ、そして昭和前期へと時が移るに従って、質が落ち、品格も貪となっていった。で、戦後はもういけない。政治はこころざしではなく、権力欲と金銭のために購うものとなりはて、政治家たちは、腐敗した官僚たちの隠れ蓑であり走狗に等しい位置づけとなった。このところ、警察高級官僚たちの悪事や、政治家たちの対応能力の無さが暴露されつつあるが、驚くにあたらない。

 日暮さんというイラストレーターがおられる。 
 ビッグコミックの表紙に著名人の似顔絵を30年間描いておられる日暮さんは、じつは著名な広告イラストレーターであり、装幀画家でもある。以前、わが仕事場でもお世話になったことがある方だ。

「政治家ってのは、もう、品格のなさ、どろどろした欲望、複雑怪奇な性格なんてものが、モロに顔にでますね」
「・・・」

 彼らはタフだ。しぶとい、といったほうがいいかもしれない。我執の強さが老醜に加わり、ふためと見られない顔になっていることに、自ら気がつかない。分厚い脂肪と皮膚の下に、既に腐臭が立ち上がっていることに頓着しない。そういえば、死に損ないの元総理が、半年も世間から隠れていながらいまだに影響力を持っているとも聞く。

 先日の地下鉄事故で亡くなった方々のなかに、若い高校生と新婚まもないご婦人(鹿児島の方で、南日本新聞社東京支社のOLだった!)の名があった。罪無きこの犠牲者たちのかけがえのない命を、永田町に巣くう妖怪ども1ダースと取り替えられるならと、つい天を仰いでしまった。いや、そんなものでは足りないか。


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