224話 6.25
グッバイ、デブライフ

 身長170cm、ウエスト85cm、そして体重73.5kgというのが先月の健康診断での小生の基本スペックである。 

 髪の毛と財布の超軽量さについてはあえて測定するまでもない。先週の手控えに書いたが、この数値を見て医者は明快に断言した。
「あんたね、もう立派なデブ、デブだよ、デブ」(ホントに3回言った)
 この医者はじじいでデブだから、こいつが「デブのままでは人生これからが大変だよ」とでも言おうがあまり説得力はない。しかし、数値が証明したデブとしての現実には直面せざるをえないではないか。

 今の仕事をはじめて、もう300年も過ぎたような気がするが、よく考えると入社したのは25年前だ。総務部に行って古文書のごとき入社時健康診断書を見せて貰って驚いた。厚顔の、いや紅顔の新入社員であった小生のスペックは、身長172cm、ウエスト68cm、そして体重57kgであった。身も細る思いをして働いてきたはずなのにそれは錯覚だったのだろうか?

 この25年間に身に付いたのは、つぶしのきかない給与生活者としてのスキルと、15kg以上の膨大な脂肪塊だけなのか。そういえば、上がったのは血圧だけで、経済的状況はずっと低迷している。このあまりにも悲しい現実を受け入れる前に、もういちどよく考えてみると、身についたものは飲み助の友人たち以外にはもう何一つなく、大切な時間や髪の毛など、失ったものの多さに愕然とするばかりだった。

 秋の野末をなぶる冷たい風のような失意とともに、総務部を後にした。仕事場に戻ろうとフロアを横切っていると、妙に明るい声が飛んできた。

「どう、これ?」
 声の方を見ると、印刷ディレクターのM氏がニコニコ笑って手を振っている。その手になにかカードのようなものを持っていた。

「Mさん、そりゃなに?」
「ベルトさ!」正確にはベルトの切れ端だという2cm四方の皮のカードを、M氏はあと2枚出して見せた。
「ウエストが引っ込むたびにね、このベルトを切り詰めているんだ。そして記念にとっておくのさ」
「・・・・・・」
 小生はそのベルトの切れ端を見つめて瞠目した。2cmの切れ端が3枚ということは、M氏のウエストは6cmも細くなったということではないか!あらためてM氏の胴回りに目をやって小生は驚嘆した。あのマシュマロマンの如くであったM氏のハラが、たしかに引っ込んでいる。元のサイズがサイズだから目だたないのかもしれないが、たしかに細くなっている。小生は決心した。即座に決意し、覚悟したのだ。そして、M氏に聞いた。「どうやって、やせたの?」

 やせた、という言葉をたのむからもう一度言ってくれないかとM氏は嬉しそうに小生に頼んだ。そして、その秘訣を伝授してくれたのだった。

夕食では一切の油分を採らない。甘いもの、おやつのたぐいには手をださない。これがM氏が「痩せた」理由の総てだった。小生、これを守ると同時に、すこしづつ運動を開始することにした。脂肪を除去しながら、筋力を付けてゆく。ここ数年、運動らしい運動をしてはいなかったし、なにぶん、この4月で大台に乗ってしまったから無理は禁物だ。運動の基本メニューは、ストレッチから筋力増強、そしてウオーキングからランニングへ。

 10日目あたりで、やや効果が見えてきた。体重は71kg、背筋は5回が10回に、腕立て伏せは20回が50回に、腹筋のセット(V字屈伸10回)は1セットが2セットにと少しづつではあるが体重が落ち筋力がついてきた。

 そして今日がちょうど一ヶ月目である。体重69kg、ウエストはベルトの穴二つ分減少した。腕立て伏せ90回、腹筋5セット。インターバルランニングを約40分済ませてからひと休みし、血圧をはかったら、一月前に医者が(じじい医者ではなく、血圧の薬を貰いに行っている医師が)もうすこし薬の量を考えましょうか?といったのがウソのような正常値に戻っていた。

 手控えを読んで戴いている方ならご承知だと思うが、小生は寿司が大好物である。

 思えば、寿司といえばイクラ、ウニ、トロと言っていた頃(一月前まで(^^ゞ)の小生は貧しい寿司ファンだったのだろう。エライことに、これもまた変わった。

 来月の末あたりからは、シンコが出回る季節だ。シンコというのは、コハダの子だが、寿司ネタとしてこれほど季節を感じさせるものはない。夏のアジも旨いし、スズキも季節の味である。いずれも透明感のある弾けるような身に、微かに旬の脂が乗り、暑い夏の疲れを忘れさせてくれるのだ。これからは、寿司屋に行っても青い魚主体のメニューになるだろう。(と、思う)ウニ、イクラ、トロなどは、なるべく見ないようにして、注文したとしても一個づつとかにしたい(と、思ってはいるのだが・・・う、う〜む)




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