234話 9.17
「あ、香りがちがう」
 「あ、香りが違うわね」
 利き酒用のミニカップを差し出された途端、カミさんがつぶやいた。
「上品な、お芋の香りがする」そういって軽く味をみて、頷く。この焼酎、芋麹で仕込んだ、芋100%の焼酎なのだ。開発に成功して3年。以来、造れば完売という。また、製造年を明記して出荷する、希有な本格焼酎としても評判が高い。(とくに大手メーカーの焼酎では、新古酒をブレンドして出荷するため、年度を明記することはできない)
 池袋東武の催事フロアで開催されていた「鹿児島物産展」に、先月の鹿児島焼酎取材でお会いした蔵元さんが出展されると案内をいただき、カミさんと出かけてきたのだ。
 10階のフロアは大変な人込みで混雑していた。その喧噪の中に鹿児島弁を聞き、豚骨やツケアゲ、それに知覧茶の香りに包まれて、まるで「鹿児島より鹿児島みたいな感じ(カミさん)」を堪能してきた
 目指す焼酎の蔵元さんのコーナーは、会場の隅、鹿児島弁で言うと「すんのくじら」に押しやられていた。突然声を大にしていうけれど、(ちと単純?)鹿児島の焼酎の販売高は600億円に登る。先々週も書いたが、これは米の500億円、大島紬の100億円に比較しても格段に大規模の基幹産業ではないか。それを非常口近くの片隅に追いやるとは何事か!
「こんどは、鹿児島物産展ではなく、薩摩大焼酎展をやるべきでしょう」小生がそうほざくと、若い蔵元氏は穏やかに微笑み、そうですねえと静かに答えた。

 鹿児島で造られる本格焼酎についてついでに書いておこう。県内で造られる焼酎の約三分の一は県内に出荷される。また三分の一は県外に課税出荷される。つまり製品としての出荷だ。そして、のこりは「未納税出荷」として、タンクローリーに積み込まれて県外の大メーカーに輸送される。そして、例えば、われわれが東京や大阪の料理屋・居酒屋でよく目にする「大メーカーの麦焼酎」として製品化されるわけだ。
 イモ焼酎は仕込み時期が限定される(大体9月から11月一杯)から、それ以外の時期も蔵を稼働させるという意味からは、財務上歓迎すべきことなのかもしれない。だが、鹿児島の蔵が自力のブランド構築力を持ち、流通をキチンと管理し、消費者の手元にその製品を届けられるように育つならば、当然ながら上記の出荷割合は変化してくるだろう。待ち遠しいことではあるが。
 物産展ではつい色々買い込んでしまう。この日もツケアゲ、茶、寿司、おかしなど様々買い込み、重い荷物を抱えて帰った。勿論、焼酎も一升瓶で2本買った。芋100%の焼酎と、樫樽で熟成した芋焼酎だ。とうとうわが書斎兼物置には合計12本の銘酒の瓶がならぶ始末となった。


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