手控え260話より 
楽しく、美味しく、本格焼酎
 本格焼酎という呼称が、ごく一般的になってきた。結構なことだと、本格の焼酎ファンはそう思います。昔は、「焼酎乙類」というのが普通だった。でもね、甲乙を普通に比較すれば「甲」のほうが「乙」より優れているイメージではありませんか。税法上というきわめて官僚的な差別的名称に甘んじずに、「本格焼酎」という呼称を勝ち取った先人に感謝したいと思います。

 ここで、ちょっとだけ甲類焼酎と本格焼酎について整理。
 甲類焼酎は、廃蜜糖(サトウキビの絞り粕)を連続蒸留してアルコールを抽出したもの。無味無臭の産業用アルコールだ。これに様々なフレーバーを加えたり、あるいはレモンや梅干しを混ぜて飲む。ホワイトリカーともいいますね。溶かし込むものによって、味わいはもちろん変わる。たとえば梅干しのアルコール溶液などは馴染みが深いのではないだろうか。
 これにたいして、本格焼酎は原料にこだわり、麹や酵母菌、水などにもこだわって造る酒だ。清酒との造りのちがいは最終過程に蒸留があるということになる。原料のうま味をいかすために、一回しか蒸留しない(単式蒸留)。蒸留機も木製の桶にこだわる杜氏もいて、様々な味わいの焼酎原酒が、蔵の数だけ、そして造りの数だけ産まれるのです。

「紅葉を見たことがない」「子供の運動会に行ったことがない」というのは、芋焼酎を造る蔵の杜氏。   芋焼酎は原料の鮮度がいのちなので、サツマイモが収穫できる季節にしか仕込むことができない。夏の終わりから仕込みを始め、深い秋が終わり冬へと時が流れるころまでは、それこそ寝る暇もない忙しさだ。「焼酎の奴隷です」という杜氏もいる。
 発酵したもろみを蒸留して、最初の滴りがおちてくるとき、自分の子供が産まれたような感動を受けるという。この最初の焼酎を「初溜(しょりゅう)」あるいは「ハナタレ」という。アルコール度数は70度を超える原酒の原酒だ。だが、度数を感じさせないふくよかな味わいは、言葉には尽くせない旨さ。

 以前、薩摩の「萬膳庵」のハナタレを戴いたことがある。蔵元さんの満足げな笑顔を眺めながら盃を手に取った。ひとくち啜る。華やかな黄麹の酒の味わいが高速度撮影下の大輪の開花のように広がって、言葉もない。さらにひとくち味わう。緩やかに熱くなる旨味に、この酒の気骨が太い柱のように聳えているように感じた。
 ハナタレ、これは蔵人だけが味わえる酒。税法上、本格焼酎は45度未満と定められているからなのだ。蒸留後、カメやタンクに貯蔵されて数ヶ月、仕込み水で加水されアルコール濃度を調整されてはじめて、出荷用の製品となる。

 ところで、ひるね蔵酒亭のダラダラコンテンツのなかに、「ダイヤメ日記」というものがあります。出来るだけ見ないで欲しい飲兵衛日記。それでもご覧いただいた方から、ダイヤメって何?と聞かれることもあります。
 で、ですね。唐突ですが、「味噌なめて・・・」と始まる歌があります。「・・・晩飲む焼酎に毒はなし」と続く。毒はなし、という表現は、古い用法で、体にいいということの逆証だ。
 鹿児島の焼酎飲みを歌ったものだけれど、この全文を書くのには危険を感じる。柳眉を逆立てる女性がいらっしゃるかもしれないからね。でも、けっきょくは書いてしまうんだけれど。
 さて、このあとの文章を加えて全文を書き出すと、こうなります。
「味噌なめて 晩飲む焼酎に毒はなし 煤(すす)けかかあに酌をさせつつ」
 典型的な薩摩の「ダイヤメ」の風景。
作物も豊かに収穫できた。日中の農作業の疲れを、カミさんと差しつ差されつの晩酌で癒す。明日への元気が湧いてくるな、というほどの意味であると理解したい。
ダイヤメというのは、「ダレ=疲れ」を「ヤメ=止め」るということで、晩酌のことなのだ。ダレヤメが音韻変化して、ダイヤメとなったわけですね。

 さて、そのダイヤメであるが、薩摩ではお湯割り焼酎が主だ。もちろん芋焼酎。たしかに麦や米の焼酎もあります。造ってもいる。いるんだけれど、たとえば麦焼酎のほとんどはタンクローリーで大分に運ばれてブレンドされ、超有名なブランドとして出荷されるのだ。その時点で課税されるから、鹿児島で造っていても統計上は大分産ということになる。ご存じの方も多いかと思いますが、いわゆる桶買いというやつですね。灘の清酒なぞほとんどが桶買いで成り立っているらしい。

 手をかけ、杜氏の魂を注ぎ、時間の熟成をまって完成する「本格焼酎」。近頃では血栓溶解効能も認められて健康によい酒という評価も高い。でもね、健康の為に飲むわけではない。とにかく本格焼酎は、美味しい酒なのです。マスコミや芸能人が取り上げたためにプレミア化した銘柄もあるけれど、そんなのは本道ではない。薩摩にはそして九州には何百という銘柄があり、おびただしい美酒が隠されています。そのなかなから自分の好みの一本(二本でも三本でも十本でもいいけれど)を探しだして、座右の酒とするのもまた楽しいこと。
これからも、ご一緒に焼酎を楽しんで参りましょう。 

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