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瀬音残響  奥多摩川ヤマメ釣り

平成13年5月4日



 瀬音がずっと聴こえている。特に夜になり、釣ったヤマメを肴に酒杯をゆっくりかたむける時間になって、その音はいよいよハッキリしてきた。アタマの中だけでなく、体の奥の方で密やかにしかし絶え間なく脈動している。水波を刻むような瀬音だけでなく、流れの中の石の表をガラスのように覆い、はじけ、賑やかに飛沫をあげて拡散する光のおびただしい破片の輝きまでも見えるようだ。

 ゆうべ、押入の奥から久しぶりにフィッシングベストをとりだしたら、日釣り券のきれっぱしが荷札のように背中にくっついていた。5月27日とマジックで書いてある。去年いちどだけ行ったヤマメ釣り。一年ぶりだったわけだ。
3年前までは5000円払って年間使用できる写真入りの「年券」を買っていた。一日券が1500円だから、4回いけば年券のほうが良いにきまっている。だが、その年は2回しかいかなかった。昨年は年券を購入することなく解禁を迎え、釣り人の狂騒が静まった(成魚放流の魚もいなくなった)頃に、比較的下流のポイントに入渓したのだった。そこは広い河原だが、バーベキューを楽しむ人たちで埋め尽くされるような、交通至便、買い物便利、トイレも(ばっちいが)完備というところで、渓流釣りの風情には馴染まない場所だった。だが、ウエイダーをはいてちょっと上流へ歩くと思いがけず静かな場所もあり、淵、ひらき、瀬と渓相も変化し釣趣も味わえるのだ。

 この土曜日も、昨年と同じように暖かな良い天気だった。きっと瀬の釣りになるなと思い、仕掛けを作った。

 6mの渓流竿に天井糸0.8号を1m、道糸は0.2号。手尻一杯まで使ってプロヤマメの4号を外掛けで結ぶ。オモリは仁丹大のがん玉をちもとから20cmに打った。目印は蛍光色に染められた毛糸。白と黄色の二つをハリから90cmと1mのところに付けた。エサはすぐそばのポイントで入手。(企業秘密です(^^ゞ)

 ずっと向こうの対岸から、淵のぶっつけを狙っている釣り人の姿があった。あのポイントでは、たしかに大きなヤマメやイワナが掛かる可能性はある。そこが奥多摩川の面白いところだ。だが、きょうはカミさんと娘からの「晩御飯のおかず」をというオーダーを抱えている。餓狼のごとき3人の子供も待っている。数を釣らなくてはならない。釣果より瀬音、などと悠長なことはいっていられんぞ。
気を入れて第一投。毛糸が立った瞬間に明快なアタリが手元にきた。目印が横に走り、水流にあらがって銀色の輝きが流れの中で反転した。竿はマミヤの6m、先調子ながら胴に載せる柔軟さをもった渓流竿だ。なんなく引き抜いた。激しい振動とともに手元に飛んできたのは18cmほどのヤマメ。銀色の魚体に濃いブルーのパーマークが鮮やかだ。
場所を少しづつ移動しながら、この午前中で20ばかり釣り、お昼すぎて納竿した。腹が減ったのとビールにありつきたいという雑念からか、アタリが遠くなったからだ。絶え間ない瀬音をあとに、愛車の爺ジープを停めた場所までくると、もうそこは人、人、人の波。肉や魚を焼く匂いが立ちこめて、きょうがゴールデンウイークのさなかだとあらためて気がついたのだった。

 うちに帰ってビールを飲みながら下拵え。沖釣りとちがい、台所に立っても陸揺れ(おかゆれ)しない。あたりまえだ。出刃を研いでなかったので、愛用の杉原渓童さん昨のカスタムナイフで作業する。手に馴染んだ道具の良さを感じるナイフだ。このナイフの刃もずいぶん研ぎ減ってきた。もう14年も使っている。そういえば、釣りの足のボロジープも20年(製造されてからは30年)ものだ。たまに戴く球磨焼酎「大古酒繊月」は35年だと戴いた方から聞いた。年数を重ねなくては伴わない風情とか味とかいうものが、確かにモノにも人にもあると思う。


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