(上燗) (上燗)
●桃の節句に

二月も終わりにちかづくと一気に暖かい日が多くなる。
里山には鳥が遊び小川の流れ込みでは小魚がエサを追う。
やがて、三月の風に乗って梅や桃の花びらがまるで春の雪のように空に舞い始めると桃の節句だ。元々は3月上旬の巳の日であり、上巳の節句といった。五節句のひとつである。
穢れを人形に移して川や海に流していたのだが、のちに人形が精巧かつ高額なものになり、流さずに飾る、「雛祭り」になったのだという。
娘やその友達たちが笑いさざめき歌う声を聞きながら、白酒ならぬ焼酎を呑む。酒はあでやかな名の「舞香」、ストレートで。
福々しい香味を楽しむ時間が春とともに流れてゆく。
部屋が狭いのでカミさんの実家が買ってくれた七段飾りを出すと、居間にオヤジの場所はなくなる。
物置兼用の書斎に座り、子供達の声を聞いていたのはいつまでのことだったか。
その娘や同級生たちも数年前に成人しみな就職してしまった。


●風雅なお雛様の話に続いては即物的な話題。

3月1日は「豚の日」である。
アメリカの話だが、この日は全米で豚の品評会が実施されるとか。
「もっとも利口で、人の役に立つ」家畜のひとつ、豚。
鹿児島は畜産とりわけ「豚」の産地であるが豚に感謝する日が制定されているのだろうか。なくともこの日の酒の最初の盃は愛すべき「豚」のために挙げよう。畜産と焼酎いずれも鹿児島の地域資産。課題は多いが真摯に考えてゆきたいものである。
焼酎は「角玉」、佐多宗二商店のいまはない銘酒である。肴はもちろん「豚の角煮」。泡盛や黒糖でじっくりと煮込んで作りたい。


●記念日の由来をパターンに分けると・・・

3月4日はミシンの日。語呂合わせの記念日だが、制定は日本縫製機会工業会。
ミシンとかけて焼酎と解く。そのこころは、(酒)母が大事。おそまつ。
このような語呂合わせのほかに、記念日の制定理由にはいくつかのパターンがある。
(special thanks:熊野卓司氏)

1.記念起源・由来型 〜何かの出来事や歴史事実、物事の始まりなどに起因、由来
2.語呂合わせ型〜日時と記念日の対象とする物事の語呂合わせ
3.年中行事・宗教儀式・祭型〜毎年恒例の行事や習慣、宗教儀式、節気など
4.上意下達型〜国連や国、自治体、権威団体などが制定したもの
5.便乗型〜何かの記念日に便乗して販促チャンスやPRデーにしたもの
6.考え落ち型〜説明があって初めて「なるほど」と想わされるもの
7.シーズン到来型〜これから需要期に入る、今が最盛期、シーズンインなど
8.形合わせ型〜日時の形をあるものに見立てて記念日としたもの
9.何となく型〜成り立ちの理由が漠然としていたり、確たる理由のないもの
10.外来型〜外国の風習や記念日が持ち込まれたもの

一番多いのは1.次が3.である。自然な由来というべきだろう。
楽しいのは2.の語呂合わせ型。ミシンの日とおなじ3/4は琉球放送が制定したある記念の日である。おわかりですね。
はい、三線(さんしん=蛇皮線)の日です。どっちも焼酎、泡盛と関連しているので(こじつけ?)、呑まずにはいられない。「春雨」の10年をロックでいただきましょうか。そういえばロックミシンってのもあったなあ。


●エスカレーターを初めて見た日

山形屋デパートにはじめてエスカレーターが登場したときのことをかすかに覚えている。小学校のガキのころだった。
悪ガキ連れだって「乗りに」いった。たしか1〜3階まで上がりのエスカレーターが設置されたのだった。
「ないごて下りはなかとけ〜?」と悪友に聞いたら、
「客を帰らせんごっじゃなかどかい」と答えた。
いま考えれば、閉店時間近くには下りに切り替えていたのかもしれない。
大正3年(1914)3月8日、上野の大正博覧会の会場に設置されたのがわが国初めてのエスカレーターである。
3/8はエスカレーターの日
エスカレーターといえば、電気仕掛の「はしご」である。はしご、とくれば「酒」だろう。ということで、大正浪漫に乾杯と相成るのである。
どっかにもらい物の栗焼酎四万十大正があったような。


●アルコール中毒者の守護聖人って?

なんだ、こじつけばっかりじゃんと憤るあなたに神の恵みを。
エスカレーターの日に祝杯というまっとうな理由に納得できんというあなたでも、おなじく3/8の「神のホアンの祝日」になら文句はあるまい。
ポルトガルに生まれた聖人ホアンは病院を作り貧乏人や浮浪者、そして娼婦などの世話に生涯を献じた。病人とりわけアルコール中毒者の守護聖人である。
ホアンに謝辞と盃を挙げてこそ、禁酒日を守り抜く正しいのんべえのあり方をまっとうできるのではないかな。で、何を呑むのだって?そりゃあやっぱり「金兵衛」でしょう。種子島の鉄砲鍛冶にちなんだ芋焼酎。
おまけにひとつ。3/9はバービー人形がニューヨークで誕生(発表)した日。う〜む、これは酒に関係ないか。まてよ、昭和34年(1959)のことだからもうバービーちゃんも45歳。先日どうも離婚したらしいから酒ぐらいのむだろう。お付き合いしましょう。BGMは「ひとり酒場で」か、やっぱし。酒は「よくろぼ」をストレートで。


●バレンタインより甘い記念日

3月も半ばになって雪が降ることもある。
春爛漫と油断して風邪など引いてはいけない。ただの鼻かぜなら玉子酒、寝冷え食いすぎの腹痛ならアロエ酒が即効だけれど、SARSや鳥インフルエンザなどに酒は効かない。十分に気をつけなくては。どう気をつけるかは知らないけれど。
3/10は佐藤もとい砂糖の日。もちろんこじつけタイプだ。砂糖の優れた栄耀価値などを見直そうという記念日である。酒屋に行って「佐藤の黒を」なんて言ってもたぶんありません。飲みたければ焼酎を扱いなれた居酒屋にゆくのが近道です。語呂合わせついでに、「佐藤の日」として小生は「白麹仕込みのさつま」を一杯。ラベルは赤いけれど。


●月月火水木一どん

3/12は明治9年、官公庁で土曜日半休、日曜日休日制度が実施された日である。まあ、欧米と同じ仕組みにしたわけだ。
土曜日は正午の大砲の音(ドン)で仕事が終わるため、丸の内の勤め人たちが「半ドン」と言うようになったらしい。じゃあ、それを記念して一杯。もちろん「一どん」を5分のお湯割で。これで、半どん。


●あやかりたいものである。

あやかり商売というものは多いけれど、バレンタインデーの返礼プレゼントをする日であるホワイトデーも例に洩れない。3/14は「キャンデーを贈る日」(全国飴菓子工業組合制定)でもあり、「マシュマロデー」(石村萬盛堂制定)でもあり、「芋焼酎を贈る日」(ひるね制定)でもある。
それにしても訳のわからぬ夷荻の習慣を活用する商魂には感心。そこで一杯。「しろ」いやいや、ここはやはり芋焼酎「白馬」のお湯割といこうか。


●「風さそふ 花よりもなお 我はまた 春の名残を いかにとやせん」

月に1〜2回、昼休みに神谷町の城山ヒルズまで約20分かけて歩く。
その途中、日比谷通り新橋四丁目交差点近くに浅野内匠頭終焉の地と大書された石碑を見る。元禄14年の3月14日江戸城松の廊下で高家筆頭吉良上野介に「遺恨、覚えるか」と斬りかかった内匠頭はこの日のうちに切腹となった。
この一帯(正確には北に2ブロック、東に4ブロックのエリア)は、かつて岩手一ノ関藩三万石、田村家の上屋敷だった。切り絵図(古地図)で見ると、元禄の頃にはもちろん現在の日比谷通りはなく、屋敷の門は新橋よりの「大名小路」に面していた。現在の「赤レンガ通り」である。石碑が建つあたりは屋敷の裏庭にあたる。大名の身で庭にて腹を切らされた浅野内匠頭は無念であったろう。
屋敷の門の脇にあたるところにいま一軒の和菓子屋がある。この店の名物菓子の名はなんと「腹切最中」。悪趣味な銘柄名だがよく売れておりために商いは繁盛しているという。やがてこの一帯は消え失せる運命にある。アメリカ大使館から汐留の高層ビル街までを貫徹する新設道路、別名「マッカーサー通り」という名のコンクリートの下に埋没するサダメなのだ。まさしく色即是空、諸行の無常を感じるのである。
こんな夜は赤穂の酒「忠臣蔵」のコクのある味わいを塩だけで味わう。「義侠」の清冽さを熱燗で味わう。「武家屋敷」をストレートで呷る。
「(もし主君が卑しめられたなら)おいたちゃ、すぐに撃ちこむど〜」と言った薩摩兵児の気持ちをおもいつつ。(下燗につづく)

のんべえ歳時記表紙