ブームのあとさき ................................四輪駆動車ジャーナルCCV「クロスカントリービークル」49号所収

5年ほど前、「釣り」が一気に熱気をはらんだブームとなった。 釣り番組が、テレビ東京だけで6番組も編成されたほどだ。当初ブラックバスから始まったこのブームは、やがてマスコミがタレントがらみのバラエティ番組などで煽りまくったためもあり、ますます加熱した。バス釣りだけではない、渓流、鮎、磯、そして沖釣りと呼ぶ船の釣り、さらにファッション性が受けたのか、フライフィッシングまでも異様な盛り上がりをみせて広がっていった。ジャ○ーズのタレントがバスに熱中していると知ったファンは慌ててショップにかけ込み、釣りファッションを一式買い込む。タレントかコピーライターかわからん奴が、くわえタバコで釣りをするCMが流れる。幕張やお台場で開かれたフィッシングショーは猛烈な人混みで賑わった。

バス釣りのプロが登場し、琵琶湖では地元の職漁船をぶっとばす勢いで高速のバスボートが疾走しまくり、湖底にはおびただしいプラスチックワームやシンカー、ラインが堆積し、磯は焼け、根は荒れ、川は釣り人が残すゴミで汚れていった。
ブームに乗り遅れてはならじと、これまたおびただしい雑誌が創刊され、釣りのショップも次々に開店した。総合釣りメーカーの業績はもとより、ロッドやリールの生産額も倍々で伸び続けた。 のべ竿(単なる一本の竹竿)で釣れるマス釣り場にはニュージーランドにでも出かけるのかと間違うほどの道具を持ち込んでキャンプする連中が押し掛けて、鼻の欠けた養殖マスを釣った。
アウトドア雑誌にはカラフルなフィッシングウエアを着込み、どデカいRVの脇でキャンピングテーブルにワインを載せて食事している家族やカップルの写真があふれかえった。
そして、ある日突然、といっていいタイミングで、ブームが終わった。
本当にあっけないほどの終焉だった。

雑誌の休刊(廃刊と同義)、メーカーの撤退、ショップの閉店が相次いだ。
メーカーは生産ラインを整理し、釣り部門自体を廃した会社もあった。もちろんテレビ番組は次々に中止されて、キャスターたちもプロたちも次々に仕事を失っていった。
とくに事業規模を広げて人も抱え込み、工場を増設して(海外拠点を含む)生産体制を拡大したところなど、事業ドメインの転換などにはほとんど可能性を見いだせずに工場の売却や大規模のリストラで息をつないだ会社もあった。ブームの後には漠々たるフィールドだけが荒れ果てた姿を残している だけだった。
「釣り」ブームのあとさきを、すこし誇張して書いてみた。まあ、誇張してはみたが、実際のところ、そんなものだったと思う。釣りブームの終わりは、じつは薄っぺらなアウトドアブームや、なにか勘違いしていたとしか思えない四駆ブームの終焉でもあった。

たとえば、ここに一台のクルマがある。タイヤはぶっとく、笑ってしまうほど大きく、ジャングルを踏みつぶして走りぬけることも朝飯前といったイメージ。後ろに回ると、スペアタイヤには大事にカバーが掛けられていて、「荒野は俺のモノだあ」と英文で書いてある。ナンバープレートはもちろん、緑色のライトを内蔵した発光タイプ。こんなクルマを「コロがす」ドライバーはどんな奴かなと窓を覗くと、すべてのウインドウはシールされていて真っ黒だ。
この手のクルマは、決してホントの荒れ地や泥濘地には足を踏み入れない。10cmの積雪でもスタックするから、という真実がその理由でもないんだなこれが。
「オフロード?マジかよ。クルマがよごれちゃうじゃん。お洒落じゃないしィ」
空と風を友として荒野を駆けるかわりに、この連中は、ちょっと足りない女をナビシートにのせて原宿に行き、ラフォーレの前あたりに駐車する。ほとんどいちんち中、駐車し続けている。まあ、見せびらかしているわけだ。

四輪駆動車がブームだったころ、ごく普通に見られた風景だ。
それでもたまにラフに出たりすると、連中はまたたくうちにスタックする。脱出の方法を知らないからというだけでなくて、スコップ一本、毛布一枚積んでいないのでどうしようもない。寒いし汚れるのでクルマの外に出たがらない。でかい車体が林道を塞いでしまい、やがて後ろからやってきたジープ乗りたちが、しょーがねーなーと舌打ちしながらレスキューしてやる。そんな風景もいたるところで目にした。カタログ的アウトドアブームとファッション的釣りブームが終わったとき、こういう「ヨンク乗り」連中が一緒に消えていったのはごく自然なことだったのだろう。
クルマメーカーも部品メーカーも、急速に放熱したマーケットにとまどい、まだ動き続けるラインを凝視し焦燥した。「消費者」がいなくなった後には、ブームの残した荒廃のみが目立っていた。派手な「四駆ショップ」は店を閉じ、あるいはブームの前の姿に帰っていった。現在、このテの四駆の出荷台数はなんと30年以上前のレベルにまで落ちているそうな。

たとえばここに一台の車両がある。
小さな車体は傷だらけでところどころ穴が開いたりしている。ライトは変哲もない丸いのが二つ。車体には飾りのデカールなどというものは何もないが、頑丈なスコップとよく切れる斧が取り付けてある。
こまごまと良く走り、40cmの積雪でもチェーン無しでラッセルして走ってゆく。ドライバーの足下が浸かる位の水深でも川の流れを探りながらなにげに渡河してしまう。
冬は寒いが、走った後のお湯割焼酎やかき揚げ蕎麦をいっそう美味しくしてくれる。夏は暑いが、汗を流した後、ゆっくりと飲むロックの本格焼酎を絶妙の味に変えてくれるのだ(すいません、筆者が焼酎好きなもので^^;)。
これは、「ヨンク」ブームとは無縁のプロダクトとライフスタイルだ。乗り手は「消費者」ではなく「生活者」というのが適当だろう。

今、「焼酎」ブームだ。
関東以西では、本格焼酎(乙類)のシェアが急増し、その勢いは関東以北にも伸びつつあるらしい。
昭和50年あたりのチューハイ(焼酎)ブームとは違い、味そのものへの理解が得られたのだろう。
焼酎の造りの技術も向上し、品質も極めてよいものが産み出されている。
健康によいという研究結果もあり、とくに若い女性を中心に、焼酎ブームが起きているとか。この一 年を振り返ってみても、数多くの出版物が本格焼酎をとりあげ、多くの料理屋が焼酎を店に置くよう になった。マスコミの動きも激しい。焼酎やその産地、造り手などがグルメ番組で取り上げられることも増えたし、なんとワインの著名ソムリエ氏が「実は私は焼酎が・・・・・・」と本を出したり番組に出演したりというありさまだ。
だが、ブームゆえに、市場の混乱も始まっている。
大資本が鹿児島を初めとする産地の蔵に資本とマーケティング企画を注入しはじめた。大規模流通の可能性を見てしまった経営者が、どう自分らしさを確保してそれに対処してゆくか、地の文化であり、誇り高い歴史でもある「焼酎」を思うとき、非常なる懸念がある。
我が道を確固として貫く蔵もあれば、浮き足立つ蔵もあるだろう。

そう、ブームは人々を「浮き足」立たせる。マーケットが浮き足立ったときには、まともな「モノも心」も見えなくなってしまう。ブームの熱気が去ったあとに残るのはただ荒涼の眺めだけ。
かっての「四駆」ブームの教えるところを、釣りや焼酎のブームになぞって考えてみるのも良いかも知れない。それにしても、ブームとは無縁のところにあるCCV読者諸氏の四駆ライフに思いをいたせば、まことに至福の輝きに満ちていると思うのだけれど、いかがでしょう?

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