客の笑顔は何に返る?
平成15年5月18日


「客の顔色を見ながら仕事するってのは、プランナーとしてちょっと違うんじゃないか?」
「客に必要なものが何なのか、それを直接コミュニケーションする中で見いだして企画するのがホントでしょ!」

残業していた連中も半数ほどに減ったオフィス、午後8時。どこかのパティーションの中で、キーボードを打つ音が小さく聞こえる。静かな夜だ。私のいる場所からそう遠くない打ち合わせコーナーで男と女がやりあっている。
マーケティング畑をずっと歩いてきた男はこういう。
営業担当者がキチンとブリーフィングしてくれれば我々企画担当者が営業まがいのクライアント対応をする必要はない、そんな時間もないはずだ。学究派らしい断定的な口調で決めつけている。51歳、独身。
女はその男の部下だ。30をふたつみっつ過ぎてプランナーとしては脂ののった頃合いの中堅。他社で媒体担当の経験あり。バツイチ。両国にある実家に子供と一緒に住んでいる。実践派とでも言おうか、俊敏なフットワークと仕事の早さで重宝されている。それでいて、多変量解析など、学究派指向の上司など及びもつかないスキルを持っているから「強い」。

彼女は営業担当に任せっきりにせずに、自分でクライアントと直接コミュニケーションをとることが必要だと主張しているのだ。
「お客のためにプランを作るのがあたしの仕事、何が必要なのかを直接聞くのは当たり前でしょ」と譲らない。「何のために営業とシェアしているンだい。営業からの説明を聞いて的確で上質なソリューションを提供するのがプランナーの仕事だよ」・・・どうもこの男、アタマが堅い。

ふたりの会話を聞いていて思い出したことがある。
東中野の「名登利寿司」の店主さんのエピソードだ。
いつだったか、この店の女将さんが書いたエッセイで読んだ話だ。夏バテで箸の進まない客にそれではと握った一品。たしか烏賊の握りを塩で勧めたのだったと記憶している。これで客の夏バテが吹っ飛び、食欲が湧いたのだという。これじゃまるで医者だね、と感心したのだが、考えてみると課題を抱えている点ではクライアントも患者も同じだ。顔を見て話をし、相手が気づいていない或いは表現できない部分を読みとる。その上でこそ的確な処方が出来る。客の課題を解決し、満足してもらえる。(名登利寿司さんのレポートはこちら

この女性プランナー、最後にこう言い放った。
「まあ、これは仕事のスタイルなのかもしれないけれど、高級割烹の奥の板場でしかめっつらしく料理する名人なんかより、寿司屋のカウンターでお客と話しながら包丁を使ったり寿司を握ったりしている方があたしには向いてます。」

「焼酎楽園」(季刊/金羊社762円+税)の第9号に、小正醸造の古河潔氏のインタビュー記事があった。
「営業社員なのに、なぜ焼酎の造りに?」という質問に、酒販店さんに負けるからと答えた古河さん。
「熱心な酒販店さんは各地の蔵を訪ねて、酒の造りに関してもよく知っている。でも僕ら営業は、本で勉強したり問答集を覚えたりするくらい。いっぺん自分で造ってみたい」そう思っているときに鹿児島の若い蔵元たちが自分で造った酒を自分で持って営業に歩いている姿をみて「焼酎造りを志願」したのだそうだ。

自分の仕事はここまで、と壁を作りたがる人は多い(責任と保身という原理に支配される霞ヶ関の住人などはその典型か)。決定的なダイナミズムの欠如。エネルギーのほむらなどそこには一片もない。

「焼酎」は科学であり農業であり飲み手というユーザーを見据えたマーケティングでもある。
原料の生産、造り、流通、業務店そしてエンドユーザー、一気通貫のこのフローをキチンと自分の目でみている蔵元の多さが鹿児島をはじめ九州の焼酎蔵の元気のもとになっている。
焼酎ブームとやらで大都市の消費量はぐんぐん増加しどの蔵も貯蔵タンクの底が見えているという。酒販店、業務店が産地に殺到して大騒ぎのこの最中だからこそ、冷静に考え、判断しなくてはならないだろう。周りに壁をたててはいけない。目を見開き、ブームの次を見据え、ユーザーの顔を見て仕事をしてほしい。儲かる酒ではなく、美味しい酒にこそみんなの笑顔が返ってくるのだから。

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