焼酎寸言

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伝承古式黄麹 太久保
 
太久保酒造  鹿児島県志布志市松山町尾野見1319-83        report 2011/12/16 
2011年3月11日、ただ呆然とするだけの時間から、「何をすべきか」と日本人は考え始めた。
人々がそれぞれのやらなくてはならないことをやるべきと観念した時から日本はまた前に向かって歩き始めた。

酒を造る人たちもそうだった。
被災地から遠く離れた鹿児島でも、日本のどこのエリアとも変わることなくそういう人の心が固まっていた。

太久保酒造の新作「伝承古式黄麹 太久保」をおおくりいただいた。
添えられた製造担当岩切氏の手紙に、「私たちのできること・・・焼酎を造り、届けること」と書かれてあった。
自分たちが造った焼酎で笑顔が生まれるなら、それがなにより嬉しいと。



黄麹は酸を生成しないためにモロミの腐敗を防ぐことがむつかしい。
徹底した温度管理には、ひとの手を惜しまない苦労が必要となる。この酒は南国鹿児島ではかなり限られる厳寒期に仕込まれたもの。
杜氏、蔵人たちは寝食を忘れて黄麹での仕込みに打ち込んだという。

同封された太久保酒造の中山信一会長の手紙に原料と味わいについて、こうあった。
「原料には米麹に地元鹿児島県大隅産ひのひかり、同じくさつまいもに大隅産庵安納芋(焼き芋)を使用。普段、芋を食べる時、蒸し芋と焼き芋では味が違うように、焼き芋を使うと焼酎造りにおいても味が格段に変わってきます。黄麹にしか出せない香りの中に焼き芋の甘さが混ざりあい、独特な香り、うまみ、甘さに仕上がっています」
太久保酒造には「杜の妖精」という焼き芋焼酎がある。原料芋は紅オトメとシロサツマ、麹米はおなじくひのひかり。この酒の印象は「かすかな辛みが甘みに変わる。余韻が長い」と以前雑誌『dancyu』の試飲レポートに書いた。さて、この「伝承古式黄麹 太久保」、黄麹ならではの味わいが如何な物になったのだろうか。

■黄麹のほかのどの酒とも違う、独特の香味。まさしく焼き芋焼酎の高峰。
最初のインパクトは、焼き芋の香味。
アルコールの辛みが強さではなく舞うような儚さを纏って広がる。そのひろがりの中で、上質な焼いた(蒸したものとあきらかに違う)芋の味わいが次第にカタチを成して湧き上がってくる。
原料芋の持つ豊かな甘みをこの酒は蒸留という過程を経てなお中に閉じ込め、飲み手の内なるところで豊穰な味わいとなって五感に浸潤する。
まことに美味い焼酎である。企画者の願い、そして杜氏、蔵人の懸命がこの味わいに結実した。拍手。


大崎にある太久保酒造の製造蔵。ひろい田園風景の中に在る小さな蔵だ(仕/2010.10.撮影)
 
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(c)hiken@2011.12.16