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南薩の光と風の中で

佐多宗二商店

「元気なおばちゃんでしょ?」そう笑って言った矢部氏の顔には桑鶴さん(田村合名)が大好きと書いてあった。斯界の大先輩への尊敬というより人柄が好きだという気持ちのほうが強いのだろう。
佐多宗二商店のこの若き部長サンは田村合名会社の社長に蔵を案内してもらいながら、笑顔をたやさずに桑鶴さんと話し続けていた。
田村合名会社にいとまを告げると「それじゃあ、頴娃町まで走りましょう!」矢部氏はそういってもう一人の社員である宮崎さんとクルマに乗り込んだ。
小生は桐さんが運転するレンタルのワゴン車で先行する。桐さんのハンドル捌きにはまよいがない。そのはずだ、ここはもう彼の生まれ故郷といっていいエリアだ。
いたるところにかってのデートコースややんちゃしていた場所が点在しているらしい。開聞岳の山麓には広大なサツマイモの畑がひろがっている。山頂には雲がかかっているが空気は乾燥してやや強い風にはたしかに海の潮香が篭っていた。


開聞岳とからいも畑をバックに。左は矢部氏
頴娃町別府の佐多宗二商店に着いたのは午前11時をすこし回っていた。事務所で副社長の右田さんにご挨拶させていただく。右田さんとお会いするのは5月の東京でのイベント以来である。
「造りの最中には決して自宅には帰らんとです、杜氏さアは」そういったのは宮崎さん。
「不二才をまかない焼酎にして、この部屋で呑むのですよ」矢部さんが嬉しそうに、標準語で言った。矢部氏は熊本出身、見た目と違い(失礼(^^;))繊細な感性と優しい眼差し、そして気遣いの心を持つ好青年だ。
「それでは行きましょうか」そういって見学へと案内していただいたのは宮崎さん。
佐多宗二商店の県内限定焼酎である「不二才(ぶにせ)」の営業担当の方だ。明るい笑顔で丁寧に説明していただいた。
製造過程にそってご案内をいただく。米処理と製麹の場所ちかくに杜氏さんの部屋がある。


整然たる佐多宗二商店のたたずまい

「さあ、ちょっと試飲してみませんか?」原酒タンクがならぶ部屋にはいると、キビキビと立ち働いている若い女性がいた。試飲の用意をしていてくださったらしい。
晴耕雨読の原酒、つまり米焼酎をブレンドする前の原酒を試してみる。
製品化された「晴耕雨読」よりまろやかな気がするほどうま味がある。

次に「不二才」の原酒をいただく。
宮崎さんが「さあ、どうぞ」とカップを差し出してくれる。立ち上がる香りの馥郁たることには言いようもない。
剛直なのにまろやか。
骨太の優しさと言っていい。
薩摩隼人を酒に写すとまさにこうなるのだろう。


不二才の原酒タンク。波打つ天国だ。

瓶詰め作業中のご婦人たちにご挨拶して貯蔵庫を出た。つぎにご案内いただいたのは地中にカメ壷を埋め込んである貯蔵庫だった。溶暗に目が慣れると、様々な深さに埋め込まれたカメ壷の輪郭が見えてきた。そこには試飲コップをトレイにのせてあの若い女性が佇んでいる。さっそくカメから直接柄杓で酒を汲み上げ、コップに移して戴いてみた。
よく「カメ壷仕込み、貯蔵がいい」と言う人がいる。正直にいうと小生はあまりカメ壷信奉者ではない。
タンク仕込み、貯蔵ですばらしい酒を沢山知っている。逆にカメ仕込み・貯蔵を売りにしている酒で、思ったほどではないものも多々あることも。
さて・・・・・・。一口いただいて、瞠目した。深みがあってコク・うま味が広がり、残響にまとわりつくなにもなく、キレよし。すばらしい!カメ壷信奉者ではない小生も、この酒には感動した。別の時間が流れているようなこの貯蔵庫の中という世界だからかもしれない。無灯で写真を撮ったのだが、光と影のバランスがうまくいったかは自信なし。


カメ壷を地中に埋め込んだ貯蔵庫。時間の単位が違う。
蔵を後にして、近くの海岸へ。番所公園は荒磯の向こうに開聞岳が聳える絶景のポイントだ。岩に高い波が噛む音が響き、潮風が強く吹き付ける。薩南の大地と海を、見るというより感じつつ、薩摩焼酎を産む自然と人に思いを馳せながら、しばらく立ち尽くしていた。

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