本格焼酎ひとりごと
「秋爽涼のときに」〜焼酎雑感

かなり前のことになるが、ある大手企業の宣伝担当氏が業界誌の「使える協力会社」特集に応えて、「いまマーケティングサービスの会社に期待しているのは、実はマーケティングではなくて、プロモーションなのです」と、みもふたもないことを書いていた。
アルコール飲料を中心としてバイオ・医学関連まで幅広い業務領域を持つ企業だ。自社のマーケティングセクションで、プロダクトやサービスごとに、きわめて細分化されたコミュニケーション戦略を構築し、展開している。
なかでも主力商品である缶入りアルコール飲料はTVを主体に膨大なマスメディア露出量を誇っている。ブランド力についてはもはや付け加える必要のないトップ企業だ。
「しかし、問題があるのです。売れない・・・正確に言うと、売れないエリアがあるんですね」
・・・・・・ということで、彼が協力会社に望んでいるのは、「問題のあるエリア」で、売るための仕掛け(メディアからプロモーション)の提案なのだった。

その「問題エリア」は、彼のようなナショナルクライアントから見れば、たしかに問題だったのだろう。発泡酒がこれまでにない消費量を記録している現在の酒市場で、このエリアだけは焼酎乙類のシェアが発泡酒を凌駕しているのだから。そう、このエリアというのは鹿児島県のこと。

平成13年度の酒類消費動向(福岡・熊本国税局発表)を見ると、やはりというか発泡酒の飛躍的なシェア伸長が顕著だ。
九州全域では、増加したのは発泡酒(33%増)で過去最高だ。リキュール類(22%増)、焼酎甲類(6%増)、焼酎乙類も2%増で過去最高だった。清酒(6%減)、ウイスキー類(7%減)、果実酒類(6%減)は軒並み減少。ビールも12%マイナスで、5年連続の減少。ビールと発泡酒を合わせた消費量は全消費の7割に達するが、そのうち発泡酒の割合は34%となっており、前年度から9%アップ。一段とシェアを高めた。
この「発泡酒牽引市場」状況の中で、もちろん鹿児島県の発泡酒消費量も29429KLと前年比3割強の増加を見せている(九州平均値に近い)。シェアも23.5%に達した。
酒類消費量に占めるシェアはビール以外ではかくのごとく発泡酒がダントツだ。ただ一県、鹿児島県を除いては
鹿児島県における乙類焼酎のシェアは25.0%なのである。ちなみに、焼酎甲類と乙類のシェアを県別にみてみよう。(単位:%)

甲類 乙類  一人当り酒類消費量(L)
鹿児島 0.3 25.0 89.2
宮 崎 2.0 22.7 93.3
熊 本 2.4 12.8 90.9
大 分 5.6 9.8 87.2
福 岡 1.6 8.5 97.1
長 崎 3.7 7.9 92.0
佐 賀 1.3 7.4 90.1
九州平均 2.2 12.4 92.9

鹿児島における焼酎甲類の消費シェアは、九州平均の1/7にも達しない。いっぽう、乙類は九州平均の二倍以上である。
九州のみならず、多様化したわが国の酒生活文化のなかでは特異といっていいが、焼酎乙類(そのほとんどは芋焼酎)に身も心も浸かりきっている鹿児島県人の暮らしの現実が数字になったといっていい。

マーケット分析手法のひとつに、CDI&BDI分析がある。Cはカテゴリー、Bはブランドだ。
DIはDevelopment Index。つまりそのエリアのその商品カテゴリーにおけるブランドの強み弱みを明確にする手法である。平たく言えば、甲類焼酎という商品カテゴリーが結構な普及を見せているエリアで自社のシェアが相対的に低いのならその原因を明らかにしてマーケティング戦略なりプロモーション施策なりでシェアをアップさせる作戦をとることができるという考え方だ。
だが、鹿児島での焼酎甲類の市場に関して言えばこの分析手法はなりたたない。実質的に0.3%以下ということは市場がない^^;ということに等しいからだ。

先述の宣伝担当氏は鹿児島における缶入り甲類焼酎にはポテンシャルがないと判断せざるを得なかったのだろうと思う。


甲類メーカーを主とする県外資本の鹿児島侵攻が目立ってきた。
彼らは鹿児島を市場とみることをあきらめ、生産地とみなしたのだろうか。であればまだいい。鹿児島の伝統的な芋焼酎の造りに、記号論的な市場価値をあたえ、ブランドの刈り場として見なしているなら哀しいことだ。ブランドの色彩が薄れるまでの利用価値しか認知しないのは、もの作りにとっては絶望的なまでの軽侮だからである。
ブランドの経済価値などという観念とは次元の異なる心情からそう思う。

小牧酒造に資本参加し、神酒造とアライアンスを組んだ宝焼酎、さつま司酒造を買収した協和発酵、それをさらに買収したアサヒビール。そして先ごろ、さつま美人酒造は福徳長酒類に買収され、実質的に関東の甲類焼酎メーカー、合同酒精の傘下になった。
鹿児島の焼酎メーカーは(ごく一部を除き)小さな事業所ばかりだ。地場産業としての独自性に富み、伝統を継承し、技術を磨き、生産農家と協力して毎年おいしい焼酎を産み出してくれる県下100余の酒造場は、しかし経営基盤という点では脆弱極まりないのだ。むつかしい問題だが、地産地消ということを考えなくてはならないと思う。ようするに、地元ん衆(し)が地元の蔵を大事にしなくては、ということだ。

いま、首都圏を中心に「本格焼酎ブーム」だという。
たしかに関東圏,関西圏での本格焼酎の消費量は増加している。それが昨年度、鹿児島県の酒税納付額14%増という実績につながっているのだ。
原酒タンクがからっぽの蔵もある。大都市圏での消費の伸長を受けて、鹿児島の蔵はことし造りを早めたところが多かった。結構なことだとおもう。足下をよくみて時流を活かし、よい製品を作りつづけ,送り出し続ければ、そう簡単に熱気がさめるとは思えない。

たしかに数年前からの焼酎蔵元によるプロモーション努力には大変なものがあった。消費者の像を把握する、消費者と語る、消費者に理解してもらい、さらに消費者が蔵に見学にくるほどのファンになるまで相対してゆく。そして消費者は、「焼酎」と「人」の味方になっていった。この関係、信頼は強固だ。ブームという一過性の現象などではありえないことだ。むしろ夏の熱気が秋の爽涼に移り変わってゆくように、本格焼酎への理解を深めた人たちによって本来の愛飲者の姿がはっきりと見えてくるに違いない。

消滅する蔵も買収される蔵もある。昨年度の倍,三倍は造ると意気込む蔵もある。どれも鹿児島の現実ではある。いろいろな事件も生起した。誤解と憶測も溢れた。西酒造に関する読売新聞の虚報事件では地元でも大きな揺れがあった。その揺れを静め慣らし一層土台を固めようとしているのも、鹿児島の蔵元さんをはじめとする有志の人たちだ。あのとき雑誌「焼酎楽園」の小林編集長が書かれたコラムの末尾にあった言葉を、肝にいれておきたいと思う。
小林さんは、こう書かれた。
<「たかが焼酎、されど焼酎」。焼酎愛飲家のひとりとして、この言葉の重さをしっかりと受け止めていきたい。>と。

「酒亭」入り口   「ひるね蔵」ホーム   掲示板  ひとりごと表紙