「きばっど!網界本格焼酎党」

O嬢、闇の酒商人を追う の第二巻

「落札したとね?」遅れてやってきたO嬢が席につくや、Kクンが聞いた。
「あんオークションの焼酎よ、いけんじゃったと?」

 O嬢はおかみさんが差し出したおしぼりでちょっと額を押さえた。雪にでもなろうかという寒い夜なのにうっすらと汗ばんでいる。「あせいやんな、Kクン」O嬢はおかみさんに、萬膳をお湯割りでと注文してから、膝にのせたハンドバッグを開けた。「ほら、こいが出品者ぢゃっよ」O嬢がテーブルの上に置いたのは数通のメールをプリントしたものだった。

 ここは大井町の駅近くにある蕎麦屋。清酒も様々に取りそろえられているが店主の好みもあってか本格焼酎のラインナップも充実している。
「出品者には不法な商売という自覚があるようぢゃっね。こいが落札して最初にきたメール」そういってO嬢が示したメールには、ただの二行しか書かれていない。落札・購入の意思の確認と送り先を連絡してというものだった。

「出品者の情報はなんもなかねえ。名前しか書かれておらんし」とT氏が言った。J氏がプリントを見て「その名前はホークスの選手と同じぢゃねえ。仮名かもしれん」T氏が頷いた。「それでOちゃん、どげんしたと?」
O嬢は二枚目のプリントをT氏の前に差し出した。「あたいの名前、住所と携帯の番号をメールしたの。すぐ振り込むから口座を教えてってね」
 その返事がこれよ、とO嬢がT氏に言った。「さすがぢゃね〜、Tさん。やっぱい福岡ぢゃったよ」
 出品者のXの住所は、福岡県下のS市となっていた。振り込み指定銀行は同市にある都市銀行の普通口座である。口座名はXだ。

「Oさん、そしたぎいなS市の酒屋でXというのを探せばよかたっね」Kクンが勢い込んで言った。O嬢が首を振った。「も、調べたの。S市にはXちゅう酒屋はなかったど。屋号も経営者も調べてみたたっどんね」
 O嬢は親しくしている酒造組合の知人に、福岡県の酒販店名簿を確認して貰ったという。そこにはXの気配すら無かった。
 T氏が杯を口に運びながら「そうか、Xが仮名ならわからんが。それに・・・」この住所だけれどね、と続けた。「こりゃあ、マンションばい。最後の数字が305だから最低でも3階建てのマンションの個人住宅だね」
 ちょっとここから先は追跡できないかなあと呟いたT氏にO嬢がにこりと笑って言った。

「ぢゃっどん、個人の住所としても、この品揃えや警戒心の強さを考えれば、やっぱい業者には違いなかち思とよ。それに調べてみたのだけれど、福岡でこん銘柄を扱っているのはA商店さんしかなかのよ」
「そうか。そしたら多分出品者は業務店ぢゃね」とJ氏が言った。
 特約店である酒屋が自分で闇流通に流すはずがない。だが料飲店の数は多く、すべてを把握するのは困難だ。
 J氏が頭を振って「こっちからの追跡はここまでかねえ」と呟くように言った。
「それでね、次の作戦があっと」とO嬢は妙に明るく言う。男たちは耳を澄ました。O嬢は運ばれてきたお湯割りを美味しそうに一口飲んで、満足の溜息をつき、顔をあげた。

「宅急便の発送状がこの住所の近辺なら、住所はウソではなかち思うの。そしたぎいな蔵元さんからA商店さんに確認して貰って、A商店から納入している料飲店を洗って貰おうと思とよ。住所がわかっちょったっで、店も目星はつくはずぢゃっち思うの」
 男たちが唸った。O嬢の闇商人探索への情熱に感動したからでもあるが、なぜかもう止まらない薩摩おごじょの勢いに圧倒されたのだ。
 それまで静かに飲んでいたHチャンがT氏の前からプリントを取り上げてじっと見つめた。ホントかどうか解らないがXの住所が書いてあるプリントだ。

 Hチャンはこの月末に佐賀競馬場で行われるレースを見にいくつもりだったのだ。サメシマとかいう選手のファンらしい。ついでに久しぶりに鹿児島に帰ってみようかとも思っていたのだが・・・・・・。
「予定変更。ちょっと福岡に寄ってみろかいねえ」
 小声で独り言を呟いたが、だれもそれに気がついた男はいなかった。

( 続く )

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