「きばっど!網界本格焼酎党」

青山ショット・バーの夜の巻
「そいがねー、びっくいしもしたど」
 この春、社会人となったK君。仕事場の上司に連れて行かれた居酒屋のカウンターに、あれ懐かしや、鹿児島の芋焼酎が並んでいるのを見て嬉しくなったという。上司はその中からプレミアがつくほど有名な銘柄を選び、お湯割りでと店員に注文した。

「上司は、江戸っ子というのが自慢のひとでなあ、そん部長が芋焼酎の銘柄を指定して、しかもお湯割りを頼んだもんじゃっで・・・」
 K君はすっかり感動してしまったらしい。
「そいじゃが。このごろやっと本格焼酎とそいじゃなかとの違いが、こっちん衆(し)にもわかっきたごっあらいなあ」
 大隅町出身のJ氏。そう言ってグラスを上げた。故郷の蔵が造っている芋焼酎を、東京の店で飲める時代になるとは夢のようだと、しきりにうなずきながら、ハイピッチで飲み続けている。
「そうですたい」と相槌を打ったのは、博多出身のT氏。宮崎の麦焼酎のグラスを掲げた。さっきまでは球磨焼酎をロックで飲んでいたはずだ。
 焼酎の好きな九州出身者が、インターネットを通じて知り合い、オフラインミーティングで集まり、なんとなく出来たのがこの「網(ネット)界本格焼酎党」。メンバーが馴染みの店を紹介しあい、結党大会(!)を週末ごとに延々と続けてもう2ヶ月過ぎた。今夜は青山の洒落たショット・バー。もちろん本格焼酎しか置いてない店だ。メニューは焼酎のロックかストレートのみ。
「焼酎も、ここまでお洒落な酒になったとじゃねえ」
 この店ははじめてのJ氏が、K君を見て言った。「キミの江戸っ子の部長が、イモ焼酎の銘柄を指定して飲む時代じゃ」感に堪えないように言ったJ氏は「それで、おはんは、何にびっくいしたとを?」と、思い出したようにK君に訊ねた。
K君は目をしばたいてから、こう応えた。
「部長は、そん焼酎をコップに少しだけ注いで、でかい梅干しを二つ入れてよくツブしたあと、お湯を入れ、また梅干しを割り箸でつついて潰してから飲んだのですよ」
 このやりとりを聞いていた川内出身のO嬢が、美しい眉をちょっと上げて溜息をついた。
 彼女の前には小振りの紅い薩摩切子のグラスが置いてある。たったいま満たされたイモ熟成焼酎はすでに3杯目のはずだ。彼女がグラスを口に運びながら言った。
「Kクン、こんどそん部長をこけ連れっきゃあんせ。あたいが、よーく、教えてあぐっで」美しい眉がさらに吊りあがった。
 男たちはなぜか一斉に口を閉じ、グラスを持ち直した。夜はまだまだ長い。
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