「きばっど!網界本格焼酎党」

BGMは何がよか? の巻

「焼酎に合う音楽ち、なんぢゃろかいねえ」
 O嬢がそらきゅうをくいっと空けて言った。

 ここは品川の焼酎居酒屋。カウンターにはいつもの面々が並んでいる。
「おや、どげんしたの。珍しくご機嫌のごっあっどん」
 Kクンが黒ぢょかを取り上げてO嬢のそらきゅうを充たした。
「せからしか。あたや真面目に聞いたとぢゃっよ」
 O嬢が形のいい眉をちょっと吊り上げてKクンを睨んだ。
「こん店はだいたいポップスでしょ。こいもよかち思うけれど、ワインやウイスキー、ウオッカなどにそれぞれ合う酒があっごっ、焼酎にもそういうサウンドがあっとぢゃなかどかいち思うのよ」

「ん〜。音楽ねえ・・・ま、演歌かなあ。なんでもよかごっあっどんな」
 そらきゅうを左手に持ち換え、Kクンにお酌しながらO嬢が口を尖らせた。「Kクンには競馬はわかっても音楽はやっせんねえ」

 ようやく春らしい陽気になった一日だった。夜気も緩み、お客がドアを開けて、出入りするたびに吹き込む風にふるえることももうない。
「わたしはリラックス系がよかなあ」とHチャン。仕事でもフェイ・ウオンのアイズオンミーなんて感じの曲を聴きながらだと気持ちが落ちつくの、と言ったが、それが何か分かったのはKクンだけだったかもしれない。
「あたやアジアっぽいのがよか。胡弓の調べなんかは、すっぢゃっどなあ」
 O嬢が言った。若いのに渋いのが好みのO嬢だ。「Tさんは、どげんな」

「やぱりジャズ。ジャズがいちばんたい」と博多出身のT氏が答えた。
 ジャズは、生き様そのもの、祈りの音楽、だからクールな蒸留酒が似合うというのかな?J氏がそうきいたら、T氏が首を振った。
「蒸留酒ちゅうても、本格焼酎は、廃蜜糖から作ったただの高純度アルコールぢゃなかです。ぜんぜんクールではなかですたい」 滋味に富み、味わい深く、爽快な中に深い懊悩を感じさせたりもする人間的な酒だからこそ、ジャズが似合うんですと言う。「Jさんはどう?」とT氏が話しを振った。
「おいはそんときの気分かなあ。旧制高校の寮歌でごいごい飲むのもよかし、エンヤでしみじみ飲むのもよかなあ」
 そう言ってJ氏が百合のお湯割りを啜った。「一貫性がなかどんからん」

「まあ、飲兵衛それぞれのリズムに合わせてくれるのも焼酎のよかところぢゃっどねえ」O嬢がKクンの酌を受けてそう言うとKクンがうなずいた。
「異議なしぢゃっど」

「そういえば、音響熟成ちゅうともあったね」とKクン。
「あれは振動を原酒に加えて、熟成を促進すっらしかよ。黒糖焼酎にも減圧ものぢゃっどん、音響熟成を売りにしているのがあっよ・・・」
とJ氏。
Hチャンが目を丸くして「クラシックを子守歌に、酒を眠らせるちゆうこっぢゃっねえ。音楽で熟成ち、ロマンがあっよねえ」というと、
「Kクン、あんたもちっとよか音楽でん聴いて、アタマん中を熟成させたらどげんね」
 O嬢がそう言ってそらきゅをくいっと空けた。
 夜はまだまだ長い。
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