「きばっど!網界本格焼酎党」

本格焼酎応援団の巻

「まこち、ないごっね」
 柳眉を逆立てるとは、こういうことだろう。そこにいたオトコたちはO嬢から目をそらして一斉に無口となり、それぞれのグラスや盃に手を伸ばした。
 
 川内出身のO嬢はある出版社に務めている。
 きょうの昼休みに、近くのデパートで開催中の鹿児島物産展に出かけてみたらしい。鹿児島が凝縮されたような空間で、懐かしい鹿児島弁に満ちた喧噪に囲まれ、ツケアゲや豚骨のにおいに包まれて、つかの間幸せな気分になったのだそうだ。  

「じゃっどん、なっちょらんがよー」
 そう言いながら、彼女はこの居酒屋の亭主が差し出した焼酎の椀を受け取り、ひと息にとはいかないが、かなりの早さで空にした。
 ここは新宿荒木町。芸者衆の嬌声が絶えなかったという昔の規模には及びもつかないが、風情のある飲み屋が集合している横町だ。今夜の、わが本格焼酎党の党大会は、この横町の中ほどにある焼酎居酒屋が会場だった。
「Oチャン、そいで、ないがなっちょらんかったとね?」とJ氏。
「いくら探しても、焼酎のコーナーが見つからんかったの。やっと会場のすんのくじらでね〜」
「え?寸の鯨?それは何」
  博多出身のT氏が目を丸くした。
「やぜろしか。ひとの話しを聞かんね」
 形のいい唇をすぼめてO嬢が言った。
 かなりのおかんむりだ。T氏は黙った。取りなすようにK君が黒ぢょかを差し出して言った。
「で、焼酎のコーナーは見つかったとですか」「やっとね」
 ひろい会場を見渡しても焼酎の展示コーナーが見あたらなかったという。人混みをかき分けながら探してやっと見つけたのは会場の片隅だった。

 非常口のすぐ隣に、O嬢が探していた蔵の出店があった。このところ本格焼酎に凝っている彼女は、大手酒販店が主宰する蔵元との交流会などにも顔を出しているらしい。

「がっつい、なっちょらん。焼酎はかごんまの基幹産業でしょ?それをすんのくじらに追いやって、どげんするの」
 博多のオトコは、今度は口を閉じたままだ。O嬢が憤懣やるかたない風情なのは、だがその事のせいだけではないようだった。

「税金があがったでしょ?蒸留粕の問題もあるし、鹿児島の小さな蔵元は大変なのにね〜」

 蔵元から派遣されていた説明員と話し込んでしまった彼女は、昼休みを大幅に超過して仕事場に帰った。おまけにそこで買い込んだ一升瓶を手に下げていたものだから、仕事場の上司には呆れた顔で迎えられたという。

「本格焼酎の応援団としては、ホントに心配しちょっのよ」
 そう言ってO嬢が3杯めの焼酎の椀を干したとき、オトコたちがそれぞれO嬢自身のことを心配していたのは間違いない。
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