「きばっど!網界本格焼酎党」

クサい質問の巻

「そいがねー、変な書き込みでねえ」

 形のいい唇に盃を運びながら、O嬢が言った。
 毎週末のように都内の本格焼酎を飲ませる店で開かれる、わが網界本格焼酎党の「党大会」。その夜の参加者は、都内の出版社に勤めるO嬢、赤坂のテレビ局の新人K君、そして大隅出身のJ氏。まだ夜7時前だが、すでに座敷は盛り上がっている。

 新橋にある居酒屋の奥座敷の卓上には、黒ぢょかを中心にキビナゴや豚骨料理が並んでいた。

 O嬢は、この店に預けてある「マイ盃」を片時も手放さずに、隣に座って緊張しているK君のお酌を受けている。
 彼女が持っている盃は「そらきゅう」。底が尖っていてテーブルに安置できない盃である。手放さないのではなく、手放せないのだ。まあ、彼女の場合、これは同じ意味なのだが。

「そいは、どげな書き込みね?」J氏がキビナゴに箸をのばしながら言った。「このごろでは、ネットストーカーも珍しなかでねえ、気をつけんと」

 ハムスターのサイトを開設しているO嬢が、本格焼酎のページを作ったのはひと月ほど前のこと。飲んだ焼酎の感想を日記風に書くだけのコーナーなのだが、いつしか、女の子たちが書き込んでいたハムスターBBS(掲示板)に焼酎の話題が登場するようになったのだった。

「るん (^^)なんですぅ。えりのハムマちゃん、赤ちゃんを6匹も産んだんだよー(^^)/」
「きゃ〜〜、うらやまPぃ〜〜(^^)」「え〜つっっっ、6匹もお**(((((@_@)/」

 黄色い声が聞こえてきそうなカキコの中に、突然、
「お湯割りが一番ですな。ロックやストレートでは、イモ焼酎のうまい飲み方とはいえないですな」
 などと、焼酎臭いオヤジのカキコミが登場してきたのだ。
 こりゃいかん、ホームページコンセプトが壊れると焦っていた矢先、「クサヤに合う酒を紹介して下され」という書き込みがあったのよと、O嬢はその美しい眉を上げた。

「あたしは酒のアドバイザーか?それにクサヤち、なあーんね?」
「クサヤはね、焼酎に合うんだよ」
 口をはさんだのは、この店の主人。八丈島の出身だ。
「アオムロ(鯵)のクサヤには、そうだね、イモでも麦でも、熟成させた焼酎が合うと思う」
 店主はクサヤの説明をし、八丈島は薩摩とは焼酎の縁が深いのですとつけ加えた。

 店主の話しを聞いていたのかどうか判らないが、「掲示板、もひとつ作るわよ」とつぶやきながら、O嬢はK君に焼酎を注いでもらい、天井を見上げて盃をきゅっと空けた。
 この盃を「そらきゅう」という理由が、K君にはその時わかったのだ。
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