「きばっど!網界本格焼酎党」

じゃっどん、ビールも好きの巻

 Hチャンは薩摩おごじょには珍しいが大の競馬ファンだ。
 G1がなんたらシンコウ江戸 がどうした、パニックサンデーぢゃっど、などと訳のわからん言葉をしゃべる。ちょいと見た目にはあどけなさの残る可愛らしいお嬢さんだが、競馬と焼酎の話しになると熱が入る。といっても、学生時代からのファンという競馬と違って、焼酎の旨さに目覚めた(本人談)のはつい数ヶ月前のことだ。
 赤坂のテレビ局に勤めるKクン(26歳)が作っている競馬ファンの掲示板に登場したのがきっかけでオフ会に参加し、同じ鹿児島出身という気安さからKクンとはすぐに仲良くなり、そして彼のもう一つの顔である本格焼酎党の党員に勧誘されたのだ。
「やっぱい、若け衆に焼酎の良さを知ってもらわんとなあ」とKクンは言うけれど、じつのところ川内出身のO嬢がこのところ荒れ気味なので、Kクン、つい癒し系へと目が移ったに違いない。

「ひゃー、ここって焼酎ばっかですね〜」
 武蔵小山の焼酎居酒屋でひらかれた本格焼酎党の臨時大会。今日の審議事項にはHチャンの歓迎、いや入党審査という重要な課題があった。
「あたりまえぢゃっど。焼酎居酒屋じゃっが」とKクン。もう先輩風を吹かせている。
「ん〜、とりあえず私はビールをもらおうかなあ」おそれを知らないH嬢。
「なんち。Hちゃん、こけきたら、焼酎をのまんね、焼酎を」とKクンが決めつけた。

 Kクン、青山で開かれた自分の入党審査宴会の夜、つい、とりあえずビールをと口走りみんなの白眼攻撃を浴びた経験を忘れてはいないようだ。
「ぢゃっですがねえ、Oさん」O嬢に顔を向けてKクンは同意を求めるように言った。あの夜、Kクンのビール発言をビシッと糾弾したのはO嬢だったのだ。だが、O嬢はKクンに目もくれずに、
「ないがね、とりあえずビールちゅうのは当たり前じゃっがね」と言い、
「K君はおなごんこにきびしかね〜。さつま隼人はホントはやさしかたっよ」と付け加えた。いや〜、Kクン、ピンチ。
「まっこち、薩摩隼人はもうおらんのかねえ」そうO嬢が細面の白い顔を曇らせたとき、Kクンはハタと気がついた。O嬢の彼氏が東北仙台にある本社に帰ってもうひと月。なにかあったのかもしれないな。Kクンは口を閉じた。こういうときは黙るに限るとKクンなりに学習している。

「千亀女をお湯割りで」と大隅出身のJ氏が店主に注文した。
「村尾を生で」と博多出身のT氏。
「う〜ん、そいなら・・・」とHチャンは首を傾げて考えていたが、にこりと笑って
「萬膳庵を生でください」そして続けてこういった。「チェイサーはビールで」
じゃっどん、あたいはビールもすっじゃっで。Kさんごめんね。そういってHチャンはO嬢を見た。
O嬢は「ん〜ん、あんたはよかこじゃっねえ。きゅはのまんならね」そう言って輝くような笑い顔を見せた。

「私もチェイサーにビール。しょちゅは紅椿をね、ロックで」女も熟成したほうがよかのとHチャンに言うO嬢の言葉が小さく聞こえたが、男たちの口が開かれることは遂になかった。
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