ミラノで出会ったホスピタリティ
道はおしえるかもしれない、しかし、ここまでの人情は・・・

 ヨーロッパの旅は「大型バス」の移動と「会議、また会議」だった。だから、合間をみてはひたすら歩き回った。朝は真っ暗な内から街をふらつき、夜は、当然だが、居酒屋関係の偵察にいとまを惜しまなかった。

 この写真のご婦人方は、ミラノで小生に道を教えてくれた方々である。

 そのとき、小生は道に迷っていた。目的地までは1キロもないはずだ。しかし、ミラノの市街は街路区画の整理など全く無縁な、中世のままの町並みである。石畳の小道がうねうねと街を巡り、直線的な道は全くない。地図を見ながらでも100メートル先にたどり着けないくらいだ。しかも小生は自慢じゃないが方向音痴。

 途方に暮れて石畳の小道に立ちつくしていたら、むこうからこのお二人が歩いてきた。高価そうなファッションが目を引く。高価そうな毛皮をまとった黒い犬をつれていらっしゃる。若いご婦人とその御母堂さまらしい二人連れであった。

「エキュスキュウーズミー」とはなしかけたら、その娘さんのほうがにっこり笑って小生の手元をのぞき込んだ。地図を持っていたから道を聞くんだなとわかったんだろう。行きたい場所を示すと、二人が困った顔をした。どうもこういうことだったらしい。場所は直ぐ近くだが、説明する英語力は娘さんにはない。その母上は全く英語はわからない。二人とも困った顔をしていたが、やがて母上のほうが娘になにやら言い、相談しはじめた。やがて娘さんが頷いてハンドバッグを開け、中を探り始めた。紙に書いてあげるということらしい。小生が持っていたスケッチブックを広げ、娘さんにわたすと、それを母親が受け取り、取り出したペンでなにやら書き始めた。

 今、いる道がここです。街路の通り名表示を指さしながら娘さんが説明してくれた。この通りの順番に辿り、曲がってゆくと、あなたの行きたい場所に行き着けますよという。もし、また迷ったら、これを誰かに見せてください。きっと次にどういけば良いかを教えてくれます。

 彼女とその母親は、小生のために道順を書いてくれたのだ。そして、ふたたび迷った時のために、未知のイタリア人にあてて手紙を書いてくれたのだった。

小生は感動してしまった。イタリアの男はどうでもいいが、ご婦人方の麗しきこと!

 一枚の写真を撮らせていただいて、別れを告げ、石畳の歴史を踏みしめる靴音の響きを、水虫のかゆさとともに感じながら小生はダビンチ博物館へと向かって確固たる足どりで歩き始めた。そして、まあ、その五分あとには又迷ったのだが、結局、無事にたどり着けたのはいうまでもない。


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