誇り高い職人は、まだいるということ
パリのナイフ屋
 歩いて15分のところに美味しいパンを作っている店がある。午後はやい時間に、散歩がてらバケットを一本買ってきた。パンとチーズをナイフで切り、ローストビーフやハム、レタスと一緒にはさんでサンドイッチを作る。刃を立てたばかりのこのナイフはパリで見つけたものだ。質実堅固な作りが気に入って買った。オイル仕上げのグリップがよく手になじんで、とてもいい。仕上げは素朴だが、しっかりと作ってある。

 シャンゼリゼを西に向かって登り詰め、凱旋門を地下道でくぐり抜けたところにあった白いテント村。それは骨董市だった。高価な古い絵や家具、得体の知れない金具などが雑然と並べられていた。そのはずれのほうに古い看板をポールにくくりつけた小さなテントがあった。そこでひとりのオヤジがナイフを並べて売っていた。
 その古びた看板にGEOPARDと書いてあったので、ドイツか?と聞くと、そのイカついオヤジは憤然として看板を指さした。よく見ると、1827年/フランス、と書いてある。170年以上の伝統を持つフランスのナイフ屋としての誇りを傷つけられたと思ったのかも知れない。オヤジの扱っているモノがモノだ、あわててオー、フランス!と感嘆したフリをした。
 
 ナイフを手にとってみた。グリップのかしめもしっかりしている。フレードも厚い。ハリはずしのついた鱗落としが付いているから、おそらくこの鍛冶屋のオヤジが、釣り好きな農民のために作り続けているものだろうと勝手に想像した。自分と釣り友達のために4本購入した。

 真新しいフラン札を差し出すと、さっき憤然として怒ったオヤジが笑顔になった。値段はここには書かない。ただ、小生が持っているナイフのうちでは安価な部類だといっておこう。まるで昔から使っているように手になじむこのナイフ、いい相棒になりそうだ。

 フランスで買ってきた最後のチーズを切りわけてパンにのせた。
 子供たちは部活やバイトででかけてしまったので、カミサンと二人の静かな昼飯になった。


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