おいしさのもうひとつの要素について
美味しいこと.2
 土曜日の午後。カミさんと銀座で待ち合わせ、築地に食事に行った。銀座四丁目からゆっくりと歩いて向かったのは、釣り師匠の新聞部長に教えてもらった「丸川」という安くて旨い寿司屋。

 新聞部長は昼前になるとよく「朝日新聞社に行ってくらあ」と言って出かけるのだが、実はどうもこの店に直行している気配がある。一度ならずご馳走してもらったので、これ以上は書かない。(冗談です、為念)
 カミさんと築地の市場の中を冷やかして歩き、丸川に着いたのはもう1時を回っていた。地下のテーブル席に落ちついて麦酒を頼みメニューを眺める。
 ところで、釣り人としては、光り物が美味しい寿司屋は信用できるといっていい。 この店はいわしもアジもサバも合格点だった。
生意気なようだが、アジやサバを釣るのが好きな小生のような釣り人にとってはこれが寿司店の格付けの確実な指標なのだ。ほかの高価なネタについてはサッパリわからないけれど。
 ま、なによりこの不景気のなかで身を竦めている給与生活者にとっては、活きが良いというのと同様に、安いというのが必要条件ではないだろうか。その点もこの店は合格だった。いや、ほんとに安かった。
 安いと言えば、フランクフルトの居酒屋も安かった。なにより麦酒が旨く、マスター(っていうのかな)がものすごく気持ちのいいもてなしをしてくれた。濡れた石畳を踏んで宿から歩いて15分くらいのその居酒屋街にむかったのは10月8日の夜。ホテルを出ると外は雨だった。部屋でレポートを書いていたのだが、小腹が空いたのでうわさに聞くライン川沿いのその居酒屋街に出かけたのだった。
 
 その店では絵で注文した。ビールジョッキの絵、ソーセージ二本とキャベツ、適当なつけあわせの絵をレポート用紙にかいて初老のマスターに渡したら、しばらくたって厨房から大きな笑い声が起こり、シェフ(というのだろうか?)が小生のテーブルにやってきて「まかせろ」というようにまた笑った。やがて出てきた皿をみてびっくりした。小生が描いた絵の通りに料理が皿にのっている。適当に描いた付け合わせはポテトだったし、キャベツの盛り合わせかたまで絵の通りになっていた。まったく洒落た料理人だ。レポートを書きながらビールとソーセージに取り組んでいると、マスターがスープの皿を運んできた。「これはうちの自慢のスープだ。ビーフスープ」
 注文してないぞとドイツ語で言おうとして、ドイツ語で大学を留年した事を思い出し、諦めた。しばらくしてパンをてんこもりにしたバスケットが運ばれてきた。食えという。ヒャー、こっちはもう腹一杯だ。なんとかソーセージとパンの一切れを腹に納め、勘定をたのんだ。初老のそのマスターが持ってきた勘定書きを見てまた驚いた。安い!しかもさっきのスープは勘定されていなかった。
 おつりをチップに置いたら、実に嬉しそうに笑い、ちょっと歌を口ずさんで小生を送り出してくれた。こんな居酒屋や丸川のような寿司屋が小生は好きである。座って何万円とかいうキンキラのばばあがいるクラブや政治屋が出入りするような料亭なぞとは一生縁を持ちたくはないな。ま、持てないだろうが。


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