太刀魚ふたたび





燗番娘に火をいれ、海と空に注ぐ



仕舞いのアナウンスと同時にきた。



このサイズだと、刺身もうまい



下ごしらえは簡単。ぶつ切りでいい。



皮は引く。削ぐように刃をいれる。



塩焼きと刺身。そして、吟醸酒

 師走のあわただしさを横目に、平日釣行を決め込んだ。いつもは厳しく休みをチェックする上司が、なぜか小生が差し出した休暇届に、何気なくハンコを押してくれたのだ。あわただしいのがかえって良かったのかも知れない。それとも小生がいないほうが仕事の能率が上がるとでも思ったのだろうか?もし、ずっといないほうが良いなどと勘違いされてはとても困るので、休暇届を取り返そうとも思ったが、そう気付いたのは船の上だったので諦めた。

 出かけたのは横須賀の新安浦港、太刀魚釣りでは有名な「こうゆう丸」だ。去年ここの女将にFMLのステッカーを上げたら船宿の入り口のガラスの引き戸に貼ってくれたことがある。あのステッカーはどうしたのだろう。ろくでもないFMLの客に懲りてはがしてしまったのか(^^;)?

 さすがに平日だ。朝6時、太刀魚船には小生が一番乗りだった。さっそく右のトモに釣り座を構える。支度をととのえ、燗番娘に火をいれる。風はかすかな北風。波は穏やかだ。空はのぼる朝日に朱色から藍色へと鮮やかに染め上げられていく。

午前7時半、定刻に第五こうゆう丸は出港した。釣り場は観音崎沖。東京湾の入り口だ。対岸には房総の山並みが優しい連なりをみせていた。

 太刀魚は別名幽霊とかオバケとか言われる。移動が激しく、昨日の釣果が今日の釣果を予測させないのだ。
 このところの調子はどう?と聞くと、船頭は

「魚はいるんだけどよう、食わせるのがむつかしいからな、タチは」というではないか。船頭はそういって値踏みをするように小生をじろじろ見た。
 釣ってもらわねえと、スポーツ新聞の釣果欄に報告できないから困るんよとその目が言っている。
 ふ、ふふ。まかせなさい。太刀魚は小生の得意技だ。すくなくとも去年まではそうだった。カミさんが、どーしても太刀魚が食べたいから、釣ってきてねと送り出すほどの信用と実績があるのである。まあ、タイはだめだが。

 釣り場に到着して、すこし潮まわりしたあと、期待を込めて第一投。海底まで80m。二本ハリにサバの短冊を付けたオーソドックスな仕掛けだ。底から上へ30mほどのあいだをしゃくって探る。 下から12mのところで微かなアタリが出た。これは、渋いぞ。 今日の太刀魚はつつき食いだ。食い気はあまり無いとみた。
 静かに仕掛けを落としこみ、もう一度探る。こんどはしゃくると言うより、エサを振動させ、踊らせるようにゆっくりと竿を動かす。小生はこの探りの方法を、ねこじゃらし釣法と名付けている。食い気が渋いときの効果的な釣り方だ。竿は朝風シャクリの180cm。オモリ負荷は30号だが80号のビシにも十分対応する。ねこじゃらし釣法にはぴったりの竿である。

 さっきと同じタナで、こんどはカツ、カツという連続した軽いアタリを感じた。竿の動きに太刀魚が付いてきている。太刀魚の歯がかみ合う音が70mの海の中から響いてくるようだ。三度目の微かなアタリで、リールが胸にぶつかるほど強く鋭くアワせる。乗った!竿先が激しく引き込まれ、振動し、少しだがリールのドラグを鳴らした。これは大きい。

 やがて上がってきたのは、110cmほどの太刀魚だった。魚体の幅は指5本分。サイズはよくなっているがね、という船頭の言葉は本当だった。(船頭が、サイズがいいというときは、数は出ない)

 午前船は12時で釣り仕舞いだ。ぼつぼつと釣れ、船頭がお仕舞いにすべえとアナウンスした瞬間に、中くらいのサイズを掛けて、結局小生の釣果は9本。まあ竿頭ということになったらしいが、ちょっと寂しい数ではあった。それでもなかなかのサイズの太刀魚だった。脂ものっていた。塩焼きやお刺身でいただいたが、その旨さはやはり釣り人でなくては味わえない、ちょっと表現できないほどの素晴らしさだった。


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