平成12年10月の手控えです。
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 from1998
過去の手控え
手控え欧州篇
240話 10.29
夢を結うところ
 こんな文章を読んだ。

「結夢庵」、不思議な名前と思われませんか。
 人生、生かされながらも生き抜くには、哀しいことや辛いことが多々あります・・・(中略)人はお酒に何を求めるでしょうか。いつの時もお酒に流るる優しい想いは永遠のものであってほしい。「結夢庵」をお飲み頂くことで幸福な想いに浸れたらいいですね。
 本格焼酎「結夢庵」と共に「夢」を紡ぎながら生きていきましょう。
今宵の「夢」が結びますことを願って。
 今年1月24日に出荷した鹿児島県出水市の新屋酒造の麦焼酎「結夢庵」の裏ラベルに記してあった一文だ。おそらく、蔵元の新屋貴子さんの筆になるメッセージだろう。この文に込められた気持ちが、じつは広告コピーの類とは全く違うことは、彼女の日常的な酒造りの上での信念を聞けばわかる。
「酒は工業製品ではないのです。造りにも原料にも心を込めてひとつひとつ紡ぎだしたい。そうして生み出した酒は、酒販店さんやユーザーの皆様に愛され、育てられてゆくと信じます」

 この蔵ではレギュラー品である「泉の誉」や、造りに工夫のある「ふなしぼり」、昔ながらの手造りにこだわった芋焼酎「紫美」などが好評を得ていた。
 特に手造りカメ壷仕込みで丁寧に仕上げられた「紫美」は、県下の評判を一気に獲得し、人気銘柄となった。この八月に鹿児島の蔵を訪ねた折り、南日本新聞社の方にご案内をいただいた天文館の焼酎居酒屋「焼酎天国」でも、一升瓶のディスプレイのあちこちに「紫美」のパープルのラベルが誇らしげに輝いていたのが印象的だった。
 この春には、新種の原料芋を使用して、紫美同様に昔ながらの手造りで仕込む新しい作品を出す予定だった(この「結夢庵 和(ゆいむあん やわらぎ)」という名の芋焼酎が発表されたかは知らない)。
 すべてを過去形で書かなくてはならないのは、新屋酒造は3月に経営不振のため、宮崎の大手メーカーに吸収合併され、雲○海酒造鹿児島工場とその名を変えたからである。桶買いして集めた焼酎に砂糖を加えて瓶詰めし、出荷していた大メーカーが、薩摩の漁師町で造りの良心を100年護り続けた蔵を吸収した現実が、現実として目の前にあるのだ。経営破綻の理由はしらない。しかし、鹿児島だけでなく、宮崎や熊本さらに大分の小さな(良心的にいい酒を造り続けているのは、おおかた小さな蔵だ)蔵元が一過性のブームに翻弄されず、射幸心に浸食されず、暴力的な流通に圧殺されずに自立した造りの魂を継続的に育んでいくには何が必要で何が邪魔かを、静かにそして熱く考えなくてはならない。

 わが家の「紫美」は大メーカーの鹿児島「工場」が、新屋の旧来のスタッフで造り続けることを許す限り、新屋時代のものを一掬の水を伝える如く「仕継ぎ」して味わうつもり。麦焼酎の「結夢庵」は残念だが、ほかのいくつかの銘酒とともに絶版となった。

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239話 10.22
黄昏のビギン
 タイトルは、ちあきなおみの珠玉のサウンド。1991年、京成電鉄のCMに使用されていたらしいが、それは覚えていない。
 この曲が、昨年ふたたび、ネスレのCMで流れた。
 「あれ?これは誰だろう」と耳をすましたくなるメローな旋律は、「タンスにゴン」で怪演ぶりを披露したちあきなおみのイメージとはぜんぜん違い、むしろHELEN MERILLのナンバー「YOUD BE SO NICE TO COME HOME TO」の憂愁の響きを髣髴とさせる。
 ネスレのCMでこの曲はまた静かなヒットとなった。
 あらためてこの人の歌を聴くと、驚く。まったく半端な巧さではない。今この元歌手は53歳になるはずだ。元と言ったのは、彼女は夫君が没してのち、完全にその歌手活動を停止してしまったからだ。ちょっと惜しい感じがする。
 昨夜は九州から上京してきた若き同業者や、球磨焼酎に燃える情熱を注いでいらっしゃる知的学究、茨城からご来駕なされた長老、そしてひるね蔵の近くにお住まいの「黒ビール大好き」氏などなど大勢の本格焼酎ファンとの宴だった。
 宴会メンバーの知能指数、いや酎能指数はかなりのものだったと、かすかな記憶をかき混ぜてやっと思い出した。さて、きょうは禁酒日。

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238話 10.15
泡のはなし
 「水泡に帰す」とか「水の泡」とか言う。元も子もなくなったという情けない状態をあらわしている訳だ。つまりは「灰燼に帰す」と同じ意味なのだが、灰燼のほうはその語調にまだ何かしらの残滓を感じるのにたいし、泡は泡、薄い水幕のなかにあるのは空気に過ぎないからさらに情けない。そういえば、缶ビールを焦って開けようとして失敗したことがある。
その時に詠んだ歌一首。
 ぷるたぶを あせってちぎり 穴開けて 噴き出すビールは もう水の泡
 まさしく、水泡に帰したわけである。情けない。
 東南アジアの某国。出国カウンターでの出来事とお思いなさい。え?泡とどういう関係があるんだって?泡たてては、いや、慌ててはいけない。人の話は最後まできかんといかんとよ。

 エックス線検査のベルトが止まった。係員が緊張した面もちでカバンを持ち上げ、持ち主を指さし短く何かを叫んだ。空港警備の兵士が銃のスリングを外して駆け寄る。指さされたのは60歳ちかくの日本人の男だった。
 一人の兵士が男を手早く身体検査して頷いた。武器を身につけてはいないということか。もう一人の兵士の背後で、係員がその黒いカバンを開けた。中から小さなプラスティックケースを取り出し、手袋をはめた手で跳ね上げ式の蓋をはずした。なかから取り出したのは大きめの注射器だ。ケースの中には脱脂綿も入っていた。「○▲■×!」と係官が叫ぶ。麻薬の常習者と言っているらしい。
 兵士がその男を拘束した。この国では、麻薬の所持は即死刑なのだ。その場で徹底的に男とカバンが調べられたのは当然だった。
 結局、麻薬も発見されず、事情聴取のあとで男は釈放されたのだ。え?泡となんの関係があるんだって?あんたも泡てものだなあ。
 この男、「泡師」といって、ビールの泡を立てる専門技術者だったのだ。ほら、よく居酒屋の壁に貼ってあるポスターがあるでしょ。なぜか海岸に座り込んだねーちゃんがビールのジョッキを持って微笑んでいるポスター。ビール会社の販促用定番ポスターだ。あのポスターで一番大事なのは、ねーちゃんではない。ビールをいかに美味しそうに見せるかという一点なのだ。うまく泡をたて、ジョッキに水滴をちりばめる、その技術はなかなか難しいものらしい。詳しいことは企業秘密なのでここでは書けないが、さっきの男の所持品はそのための小道具だったのだ。撮影の帰りだったんだね。
 いや、泡をたてに行って、慌ててしまった、泡師の話しでした。

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237話 10.9
きれいな甲類、汚い乙類ってか?
 コーヒーを煎れ、朝刊をひろげる。ホントは焼酎か釣りの本でも読みたいところだが、平日の朝6時半だ、そうもいかない。仕事前の情報収集にはインターネットと新聞は欠かせない。

 それは、9月29日の日経新聞本紙朝刊だった。飲んでいるコーヒーを止めて、焼酎のお湯割りに替えようかとマジ思ったのは、突如わが眼前に登場した全ページ広告のためである。
「本格焼酎と泡盛で、健康に乾杯ッ!」というキャッチが平体の太い明朝文字で縦に組まれている。写真ではいかにも薩摩のノンゴロらしき太った男(実はこういう短絡的なイメージ描写は止めて欲しいのだが)が若い男女二人と共に、健康にいい、美味しい「本格焼酎」を味わっている。血栓溶解機能など本格焼酎の特質にも触れた情報が分かり易く解説されていた。
 広告主は「日本酒造組合中央会」だ(拍手)。そういえば、ひるね蔵酒亭でも告発した「焼酎酒税値上げ」のその日を、来る10月1日に控えている。ははぁ、中央会としてのせめてもの本格焼酎事業者への支援という意味か・・・などと頷きながら、やっぱり焼酎は止めてコーヒーをお代わりした。
 そして、10月1日を迎えたその朝、いつものように小生は新聞を広げ、休日にもかかわらずコーヒーを味わっていた。そりゃそうだ。あさから焼酎では、アル中だ。10月1日の日経新聞本紙朝刊。そこに広がっていたのは信じられぬ広告だった。全30段のカラー広告。しかも美しさで定評のある女性タレントを起用、キャッチは「きれいな焼酎=甲類焼酎」、「そうとは知らずに飲んでいました」「焼酎には、甲類と乙類があるんです」ってなぐあいに読ませるコピーワーク。つまりこのスポンサーは読者にはこう読ませたいのだ。「え?知らずに飲んでたの?きたない乙類なんて。甲類はとってもピュアで、石田○りチャンみたいに、キレイなのよ」

 長くなるから反駁はここではしない。しかし、競合は、フェアにいきたいものだと痛切に思わせるそんな広告だった。酒亭に「甲類への反撃」という一文を載せた。盟友サイト「九州焼酎探検隊」との共同企画でもある。
 この手のストレス発散には、もう海しかないと思い、昨日は秋の相模湾に釣りに出た。「嫁の命により出動!相模湾葉山沖・秋サバ掃討作戦」をご覧下さい。
                  

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236話 10.1
そらきゅう
 もろきゅうじゃないよ。
 これは、盃の名前、というか、種類のこと。意味不明という点では鹿児島弁と一緒じゃんとお思いのかたもいらっしゃるだろう。そう、鹿児島の酒器の名前だ。
「からから」といい「ちょか」といい、よくわからん由来の名前が薩摩の酒器には多いが、この「そらきゅう」は割に簡単だ。「そら」を見上げて「きゅう」と一気に飲み干すようにできている盃という意味である、と売り場の女店員は説明してくれた。いずれにせよ真偽のほどは不明だ。
  この盃には底がない。円錐型のぐい呑みだから、テーブルに置くことができない。常に手に持っていなくてはならないから、ついつい続けざまに飲んでしまうのだ。そらきゅうには、円錐型のてっぺん近くに直径5ミリほどの穴が穿たれているものもある。これはさらにシッカリと持っている必要がある。右手の薬指をこの穴に常に添えて置かなくては、中の焼酎が漏れてしまうから。
 仕事仲間のO女史は、新橋の某居酒屋ではつねに盃を放さない。そう、彼女はこの「そらきゅう」をマイ盃としてこの店にキープしているのだ。テーブルに置けないから、飲み続けるしかない。盃を手放さないのではなく、手放せないのだと女史はおっしゃるが、彼女の場合、これは同じことだろう。
 手放さなくてすむ盃を愛用している女史の姿には、ワーカホリックである昼間の姿がオーバーラップしてしょうがない。働くのを止めたらそのまま人生をフェイドアウトしてしまいそうなほどの働き者は、このごろのわが国では珍しくなった。サラリーマンは「楽な」仕事を望み、学童は「楽しい、ゆとりある」学校生活を送り、池袋のがんぐろねーちゃんは「カンケーないじゃん」と社会規範に背を向けて楽しく青春をエンジョイなさる。政治屋は(国民の)金をバラ撒き票を買い、小賢しい14才は包丁を振り回して人を傷つける。
 この国に必要なのは、役人がいう「ゆとり」などではなく、「そらきゅう」のようにシッカリと持ち続けなくてはならない国家としての緊張感ではないのだろうか。指を放すと魂が漏れる。放置すると瞬時に中身は失われる。その危うさのただ中に、国も国民も今あることを自覚することではないだろうか。

                  

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235話 9.24
そら耳アワー
  仕事場に、美貌の女子社員がいる。
 フェリスとかいう女子大を出た令嬢で、数年前結婚したが、その容色さらに鮮やかに、社内の若い男性諸君の憧憬を集めているらしい。
 まじめな顔で黙々と仕事をしているときは、中山美穂かイングリッド・バーグマン、笑ってしまうと高島礼子(の、お笑いバージョン)か森口博子になるという、珍しいキャラクターでもある。
 雑誌部というセクションに勤務しているのだが、これが小生には有り難い。
 小生が時代小説のファンと聞いて、ときどき雑誌を恵んでくれるのだ。
  おそらく、(このオヤジ、いつも貧乏してるからなあ)と同情してくれているのであろう。
 さて、先週彼女が届けてくれたある雑誌に、逢坂剛氏の時代短編が掲載されていた。これが実に面白い作品だった。
 通路ですれちがったとき、このO女史にご挨拶した。礼には礼を以てなさねばならぬ。つぎの雑誌を届けてもらうためにも、これは是非に及ばず欠かしてはならない儀礼であろう。

「あ〜、雑誌いつもありがとう」
「え?」
「あの月刊○○、面白かったよ」
「はあ、(このオヤジなにいうてはるン?)」
逢坂剛の短編、良かったよ」

で、彼女がバーグマンの顔で言った。

「え?おさけ五合とタンメン?」

                  (ほぼ実話です(^^ゞ)

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234話 9.17
「あ、香りがちがう」
 「あ、香りが違うわね」
 利き酒用のミニカップを差し出された途端、カミさんがつぶやいた。
「上品な、お芋の香りがする」そういって軽く味をみて、頷く。この焼酎、芋麹で仕込んだ、芋100%の焼酎なのだ。開発に成功して3年。以来、造れば完売という。また、製造年を明記して出荷する、希有な本格焼酎としても評判が高い。(とくに大手メーカーの焼酎では、新古酒をブレンドして出荷するため、年度を明記することはできない)
 池袋東武の催事フロアで開催されていた「鹿児島物産展」に、先月の鹿児島焼酎取材でお会いした蔵元さんが出展されると案内をいただき、カミさんと出かけてきたのだ。
 10階のフロアは大変な人込みで混雑していた。その喧噪の中に鹿児島弁を聞き、豚骨やツケアゲ、それに知覧茶の香りに包まれて、まるで「鹿児島より鹿児島みたいな感じ(カミさん)」を堪能してきた
 目指す焼酎の蔵元さんのコーナーは、会場の隅、鹿児島弁で言うと「すんのくじら」に押しやられていた。突然声を大にしていうけれど、(ちと単純?)鹿児島の焼酎の販売高は600億円に登る。先々週も書いたが、これは米の500億円、大島紬の100億円に比較しても格段に大規模の基幹産業ではないか。それを非常口近くの片隅に追いやるとは何事か!
「こんどは、鹿児島物産展ではなく、薩摩大焼酎展をやるべきでしょう」小生がそうほざくと、若い蔵元氏は穏やかに微笑み、そうですねえと静かに答えた。

 鹿児島で造られる本格焼酎についてついでに書いておこう。県内で造られる焼酎の約三分の一は県内に出荷される。また三分の一は県外に課税出荷される。つまり製品としての出荷だ。そして、のこりは「未納税出荷」として、タンクローリーに積み込まれて県外の大メーカーに輸送される。そして、例えば、われわれが東京や大阪の料理屋・居酒屋でよく目にする「大メーカーの麦焼酎」として製品化されるわけだ。
 イモ焼酎は仕込み時期が限定される(大体9月から11月一杯)から、それ以外の時期も蔵を稼働させるという意味からは、財務上歓迎すべきことなのかもしれない。だが、鹿児島の蔵が自力のブランド構築力を持ち、流通をキチンと管理し、消費者の手元にその製品を届けられるように育つならば、当然ながら上記の出荷割合は変化してくるだろう。待ち遠しいことではあるが。
 物産展ではつい色々買い込んでしまう。この日もツケアゲ、茶、寿司、おかしなど様々買い込み、重い荷物を抱えて帰った。勿論、焼酎も一升瓶で2本買った。芋100%の焼酎と、樫樽で熟成した芋焼酎だ。とうとうわが書斎兼物置には合計12本の銘酒の瓶がならぶ始末となった。


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