クロノグラフとは、ストップウォッチ機能をを備えた時計のことです。
ストップウォッチは、時刻ではなく経過時間を測定するための機構です。
もしこれを、単機能の時計で行おうとすれば、計測開始時の目盛を覚えて
おかなければなりません。あるいは、計測開始時刻を自由にかえられるならば、
正時に計測を開始するようにすれば比較的楽に経過時間をはかることができる
でしょう。しかし、簡単な操作により正時にセットし、カウントを開始できる
時計があったとしたらどうでしょう。これがストップウォッチの基本概念です。
経過時間を器具を用いて計測する原始的な例の1つに、振子を使った脈拍の
測定があります。1.1.2.2)にも書いた通り、ホイヘンスがレギュレータを発明
するまでは時計による秒単位、分単位の計測は不可能だったので、こうした
方法が一般に用いられていました。17世紀後半になるとそのレギュレータの
発明により時計の精度は飛躍的に高まりましたが、依然として経過時間を
計測するための専用ツールは登場していませんでした。18世紀に入ると
ジャン・モーゼス・ポウゼが最初のクロノグラフを発明しました。これは、
時刻表示用と経過時間計測用のそれぞれ独立した輪列を組み込んだもので、
時刻表示とは独立して計測開始、計測中止が可能になりました。1862年に
なると、スイスのアドルフ・ニコルが`ハートカム'と呼ばれる機構を発明
しました。これは、その名の通りハート型をしたカムで、これを採用した
ストップウォッチは、秒針がどの位置にあっても瞬時に零の位置にリセット
することができるようになりました。この機構は、今日に至るまで機械式
ストップウォッチやクロノグラフに変わることなく用いられ続けています。
1915年、Breitling社は航空時計として世界最初のクロノグラフ腕時計を
発売しました。これを契機として各社がクロノグラフ腕時計の開発に本腰を
入れはじめ、1969にはBreitling他の合同、およびZENITHとMOVADOのグループが、
それぞれ独自に自動巻クロノグラフを開発しました。
クロノグラフのバリエーションとしてスプリットセコンド・クロノグラフと
いうものもあります。これは、秒針が2本の針より成っているもので、ボタン
操作によりその1本だけを停止、また動いている他方のところまで瞬時に
追いつかせることができ、各種の競技においてラップタイムを出すことが
可能です。機構が複雑になるので、腕時計にこれを組み込むのはミニッツ
リピーターやパーペチュアルカレンダー(閏年まで自動で対応する月、曜日、
日付つきのカレンダー)等とならんできわめて高度な技術とされています。
今日ひろく見かけるクォーツ・クロノグラフはこれらとはかなり違う方法に
基づいており、経過時間を計測するのは内蔵されたマイクロコンピュータで、
1/5秒、1/10秒から1/100秒、デジタル式では1/1000秒単位の時間を正確に
測定できるものもあります。ラップタイムも容易に求めることができ、モデルに
よってはこれを複数記憶することができます。また、秒針の復帰動作も多くは
ハートカムではなく、モーターの速送りにより実現されています。