アートと福祉を巡って


「ねえ、わかる気もするんだけど、どうして急にアートと福祉なの?」と、立ち上げたばかりの作成中のこのwebをみた友人に尋ねられた。
「うーん、いろいろあるのよ。」と、とりあえず答えたのだが・・・

まずはこのあたりのお話から始めたいと思う。
 


---------- その1 ----------


地方育ちの私は、子供の頃、障害をもつ人と街で出会う機会はほとんどなかった。

「遺伝だから視力の矯正はこれ以上無理だね。」と言われ、小学2年のころから私はメガネを使っていた。
視力検査は大嫌いだった。当時0.2〜0.3くらいだったと思うが、(現在0.01?)文字は見えていても、先生の指している棒の先がぼやけてどこを指しているかわからず、ずいぶん恥ずかしい思いをした。
それでも、牛乳びんの底のようなグルグルメガネをかけるのがイヤで、見栄張って授業中以外はかけていなかった。

”やはり、見える人には見えない人の気持ちはわかってもらえないのかなあ?”
このおもいが私の原点かもしれない。

3年生になったとき、同じクラスに重度の弱視と思われる男の子と女の子がいた。
学校では、彼らは珍しい存在として認識されていた。
私はいつのまにか彼らの世話をやくようになっていた。
それからも、盲導犬のお話に感動したりしながら、幼な心に”困っている人がいたら、助けてあげよう。”と誓っていた。
 


---------- その2 ----------

大人になって少しばかり手話を習ったものの、結局つかう機会をもたぬまま、ほとんど忘れてしまっていた。

十数年くらい前だったろうか。
ある友人が演出したパフォーマンスを観に行ったら、耳の不自由な人を起用していた。
私は忘れかけていた気持ちを思い出すのと同時に、”アートは、こういう交流ができるんだ。”ということに初めて気づいた。

その後も、障害をもつ人たちを対象にした音楽とダンスのイベントを手伝う機会があった。
ノッてくると足を踏みならし、思いのまま踊りだした彼らの偽りのない率直な反応には驚かされた。
感動的な光景だった。
その場の空間をいっきに変えてしまえるほどの感性とエネルギーを彼らは備えていた。

”彼らともっとかかわってみたいな。”と思いつつ、諸々の事情でかなわぬまま年月が流れていった。
 


---------- その3 ----------


数年前、私に大きな転機がおとずれた。
私は、いわゆる”臨死体験”をした。
手術後、何とか普通に歩けるように回復するまでの一年あまりは、
いろんなことを考えさせられた貴重な時間だったと思う。

普段から自分のからだと向かい合っている仕事をしていながら、”自分のからだ”という感覚がわからなくなるほどバラバラな肉体。
当たり前と思っていた肉体の機能がひとつずつ回復していく有り難さ。

初めて立つことができて一歩踏み出せたときは、きっと、どんなにステキに踊れたときよりも、晴々しい顔をしていたことだろう。
そして、歩行器を使って共同トイレまで行ってみようと、ほとんどスローモーションで歩き始めたものの、ちょうど半分くらいのところで、進むことも戻ることもできなくなって、すわりこんでしまった自分。

ゆっくりと歩けるようになってからは、見るものすべてがそれまでと違っていた。
もともとスローペースな私だったからかもしれないが、”ホンの少し頑張って2.3歩急げばあのエレベーターに乗れる。”というときでも、決して急がなかった。

私には、それまで体験したことのないゆったりとした時間の流れが、妙に心地よかった。
「みんな、どうしてそんなことで急いでいるの?」とか、
「こんな時間の感覚、あなた、知らないでしょう〜?」とか思っていた。

しかし今になって思うと、”時が過ぎれば、必ずもとに戻れる。”という気持ちが、私を支えてくれていたのかもしれない。
 


---------- その4 ----------


こんなふうに、私の内には”アートと障害をもつ人たちのこと”があった。

今年の春頃、ふと、”そろそろかかわれそうかな?”と思えた。
きっと、時間的にも精神的にもちょっぴりゆとりができたのかもしれない。
不思議なことに、ふとそう思った瞬間から、私の周りが動き始め、私はどんどんそちらに引き寄せられているような気がする。
 


---------- その5 ----------


そんなわけで、私はまだ第一歩を踏み出したばかりです。

これからきっと多くの出会いがあり、発見があると思います。
そのつど、皆さんと一緒に”アートと福祉を巡って”いろいろと考えていけたらと思い、このwebを始めました。


どうぞいっしょに、たくさんおしゃべりしましょうね!!
 


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