「美肌」の科学

( 今まで話した内容 )


8、汗腺 (8月12日更新)

いくつかある肌の働きの一つに、体温を調節する働きがあります。そう、体のエアコンですね。
汗をかくと、汗が蒸発して体を冷やす。ここまでは、もう十分に知っていることでしょう。そして、
気温を計るセンサーも肌の中にあります。だから暑くなると汗をかきます。ところで、汗はどこか
ら出るのかと言いますと、汗腺という皮膚表面に出口がある分泌腺からです。皮脂腺は油、汗
腺は水を出しているのです。水と言いましたが、汗の成分は塩(塩化ナトリウム)と乳酸ナトリ
ウム、尿素が主な成分でアンモニアもごくわずかに含んでいます。アンモニアや尿素はほぼ
尿の10分の1くらいです。

汗の成分で、美肌に関係するのは、乳酸ナトリウムです。これはNMFといって「ナチュラル
モイスチュアリング ファクター」と呼ばれる、肌本来持っている天然保湿成分の内の一つです。
だから汗をかくと肌は乾かない。と言ってばかり入られません。たくさん汗をかくと、尿素やアン
モニア、それに古い角質細胞が空気中の汚れ成分や雑菌をくっつけ、雑菌により汗くさい臭い
成分や肌に良くない成分が作られます。皮脂成分も混ざっていますので、汗をかいたら良く洗
顔をする必要があるのです。


ところで、汗をかきやすいのはどこでしょう。経験上から、額、こめかみ、手の平や足の裏、そして
首、脇の下などですね。人により、環境条件により多少は違いますが、汗を作って分泌できる能動
汗腺の密度とは関係ないと言われています。このことは講談社から発刊されている「汗の常識・非
常識」(小川徳雄著、ブルーバックス)を是非読んでみて下さい。額は汗腺の密度と発汗量共に多く
手のひらは汗腺の密度は多いけれど意外に発汗量は少ないのです。但し精神発汗は多いようです。
嘘発見器はこの原理を応用しているのは良くご存じでしょう。

話を再び、美容に戻しますが、額から汗を多くかくことは眉毛の働きに関係あるようです。汗が目に
入らぬように土手と芝生を植えているのですね。また、化粧崩れも意外とこめかみから目尻、すこし
下がって頬の横も汗の影響で崩れやすいようです。顔の正面は何時も気にしていて化粧直しをしっ
かりしていても、横が手薄になっている場合もよく見ます。そこもばっちりと化粧直ししておきましょう。

「汗よ、出るな!」と言いたいでしょうが、化粧品では今のところ止めようがないのです。考えられると
すれば、ずーっと皮膚温を下げる成分とか、皮膚の中の温度センサーである神経を麻痺させてしまう
かです。ひょっとしたら化粧品でもできるかも知れません。「実測データで、サウナ風呂で30分汗を止
めます。通勤ラッシュもこれで大丈夫!」という商品、早く出ると良いですね。ところで、サウナ風呂で
汗を止めると、体温が上がりすぎて熱中症になってしまいますので、実験も気を付けなければなりませ
ん。また、汗を吸収してくれるスポンジのような粉もあるのですが、やはりあふれてしまいます。まさか、
5oも厚い化粧膜を作ればいいのですが、ちょっとむりですね。ただし、吸収後に素早く蒸発させるよ
うな粉が開発されれば十分に期待できます。スポーツウエアの素材になどにヒントがありそうです。

実は、私たち人類には汗腺は2種類あるのですが、今回はエクリン汗腺について話しました。もう一
つは、脇の下にあるので良く知られているアポクリン汗腺です。フェロモンとも関係あるという研究もさ
れていますが、この話は又いずれかのテーマに話します。とにかく、体温調節の重要な働きと、美容
面では保湿と化粧崩れ、はたまた洗顔の必要性について話をしてみました。



9、毛の話し(1) (8月24日更新/9月16日一部訂正)

さて、肌に関しての基本的な話は毛の話しになります。一言に「毛」といっても頭の毛「頭髪」、
眉毛、睫毛(まつげ)、産毛、脇毛、等々いろいろな種類があります。長さも違えば、直毛か
カールしているか、状態も様々です。それに、生え替わる時間(期間)も違っています。

でもやはり、基本的なところを抑えておけば理解するのは簡単です。今回は、「毛」についての
基本的な話をしておきます。

簡単なとらえ方は、肌に生えている「玉ネギ」だと考えることです。玉ネギの玉の部分がいわゆる
毛根で上でスーッとのびている緑の葉っぱが毛の部分だと言うことです。ネギにもいろんな種類
があるように、「毛」にも色んな種類がありますが、基本的には同じでしょう?

毛は表皮の鞘に包まれるように肌に埋め込まれ、毛根部で毛母細胞が盛んに細胞分裂をして
毛の構造に変化して肌の表に出ていきます。玉ネギとちょっと違うのは、玉ネギは根を外側に
出しているのですが、毛根は図のように、毛乳頭という内側に毛細血管を引き入れて、そこから
酸素や栄養を受け取っていることでしょう。ここの栄養と酸素の補給が止まると、毛の成長も止まり
毛が抜ける訳です。例えれば、玉ネギが枯れて抜けてしまうのです。いかに毛根部の血液の循環
が重要なのがおわかりいただけたでしょうか。頭皮のマッサージは育毛の為に最も効果的なお手
入れなのです。育毛料は毛根部の血液の循環を促し、毛母細胞の細胞分裂や毛髪への分化を
促す成分が入っています。でも、根のない所に毛を生やすことはできません。


肌に生える「玉ネギ」は頭皮では一つの毛穴から3から4本生えています。この本数が減ると、当然
地肌が透けて見えるようになり、0本となると・・・いわゆる「禿げ(ハゲ)」てしまうのです。

また、毛にはメラニン色素が含まれていて、この種類と量により髪の色が決まるのです。日本人の
場合メラニン色素はほとんど「ユウメラニン」で色は黒いのです。但し「フェオメラニン」が多かったり
全体的にメラニン色素が少ないと茶髪になるのです。白髪は、メラニン色素が作られなくなり、毛髪
の毛皮質が透明になり、毛髄(もうずい)の気泡が白く輝いて見えるので白髪となって見えるのです。
けっして白い色素が含まれているのではありません。と言うわけで、科学的に脱色しない限り、恐怖
のあまり一夜で白髪になることはありません。(この件は、素朴な質問のコーナーで取り上げました)

なぜ肌に毛があるか、多くの生物を通じてみると、体を守ることと、センサーの働きではないかと思い
ます。あと、外見上の魅力の問題もあるでしょう。ライオンのたて髪のように。あと、皮脂腺が毛穴に
開いていることを「皮脂の話」の中でしましたが、毛を本来は艶やかにして、保護作用を強化していた
と考えることができます。と言うわけで、まだ話し足りないので次回に続きます。



10、毛の話し(2) (9月16日更新)

もう少し、毛については説明をしておきます。詳しくは又、別の項で取り上げます。今回は一般
的な話でまだ説明しきれなかったことを追加します。

まず、毛はヘアーサイクル(毛周期)があって、周期的に生え替わります。頭の毛から睫毛や眉
顔の産毛まで、それぞれの周期があります。成長期、休止期、退化期、脱毛期そして又成長期
と繰り返し生えます。生え替わりの「種」のような部分が、現在ではどうも毛乳頭部の毛母細胞で
はなく、皮脂腺の出口がある、その下の部分の細胞が新しい毛根を作るという説が有力になって
います。下の図を参考に見て下さい。そして、毛根が退化した部分の真皮には新しい毛根を誘導
する成分があり、そこに向かって幹細胞と呼ばれる細胞が、細胞分裂しながら伸びていき新しい
毛乳頭を作るといわれています。


多くの方は、新しい毛は、抜けた跡の毛乳頭の一部が新たに毛乳頭を作り直すと思っていたので
はないでしょうか?このような仮説が出来、現在まで研究が進んだのは、皮膚科では無かった稲葉
先生がきっかけだと私は思っています。世界的な科学誌「サイエンティフィック アメリカン」という
雑誌に「皮脂腺発毛説」という論文が採用されてからです。腋臭を研究していた時、腋の皮膚組織
を丹念に顕微鏡観察して、このような説を立てられたようです。現在でも、時々、育毛剤の広告に
稲葉説という形で使われています。その後の各皮膚関係者研究で、皮脂腺説は否定され、幹細胞
説に落ち着いています。

まだ、毛にまつわる話は多いのですが、今後の別の項に詳しく載せることにしましょう。






1、肌のしくみ 〜2、表皮の話 へ

3、真皮の話 (1) 〜 5、真皮の話 (3) へ

6、皮下脂肪の話 (1) 〜 7、皮脂腺の話 (3) へ

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