庇護希望者への庇護のあり方を考えるデータベース

アムネスティ・インターナショナル日本による声明
 


日中両国政府は亡命希望者を保護すべき
中国政府が瀋陽の日本国領事館へ庇護を求めた家族5人を拘束

アムネスティ日本発表ニュース
(2002年5月13日)
アムネスティ日本



  
  

 中国瀋陽の日本国領事館において、朝鮮民主主義人民共和国出身の家族5人が中国当局に拘束された。社団法人アムネスティ・インターナショナル日本は、もし5人が同共和国に送還されれば、重大な人権侵害の危険に晒されることを懸念し、憂慮している。
 アムネスティ日本は、2002年5月8日、中国当局が瀋陽の日本国領事館敷地内において、朝鮮民主主義人民共和国からの庇護希望者に対して行なった取り締まりを憂慮している。5人が強制送還されれば、中国が批准している「難民の地位に関する条約」第33条にある追放と送還の禁止(ノン・ルフ-ルマン)などをはじめとする国際人権基準にもとる非人道的な取締りであると考え、深い憂慮を表明するとともに、この家族5人が本国に強制的に送還されることの無いよう、中国政府に強く要請する。
 1999年以降、朝鮮民主主義人民共和国から逃れてきた人々が中国当局によって拘束・本国へ送還されるケースが増加し続けている。取り締まりにより拘禁された多くの人々は、あらゆる難民認定手続きの手段を封じられている。朝鮮民主主義人民共和国の法律では、許可なく出国することを犯罪と規定し、その刑罰として7年間の矯正施設収容から死刑までが適用されることから、5人が本国に送還された場合、これら罰則が適用され、恣意的な拘禁や投獄、拷問、虐待、場合によっては即決裁判による処刑、あるいは拘禁中の餓死・疾死などの人権侵害を蒙ることが懸念される。
 アムネスティは、現在までに多くの朝鮮民主主義人民共和国からの亡命希望者が中国に流入している問題を、国連難民高等弁務官や他の国際的な援助が必要な人道的危機にあたると考えている。
 朝鮮民主主義人民共和国からの庇護希望者に対する厳格な対応は、1970年代後半に流入したベトナム難民の多くに対し、庇護を与えていた事実とも対照的な政策である。ベトナム難民の多くは中国系ベトナム人だった。このことは、民族によって中国政府の政策が左右されることを示している。この事実は、中国が締約国となっている1951年の「難民の地位に関する条約」の第3条の定める差別禁止及び、人種差別撤廃条約などを始めとする国際人権基準の原則に違反することにもなり、中国当局に対し、このような差別的な政策を行なわないよう、要請する。
 アムネスティ日本は、再度、中国政府にこの政策を見直し、国連難民高等弁務官の援助により公正で独立した難民認定手続きがそれぞれにできることなど朝鮮民主主義人民共和国からの難民と亡命希望者の権利が確実に尊重されることを求め、そのような手続きが正しく確立されるまで、中国政府に対し、朝鮮民主主義人民共和国の治安当局が中国国内で行なっている活動を含む、身柄の拘束と強制送還を目的としたあらゆる活動を中止するよう求める。
 また、今回の事態において瀋陽での日本領事館の対応は、日本政府、外務省において、庇護希望者や難民に対する法的対応の認識が極めて浅く、その基本的手続きが未整備であることを内外に明らかにした。このことについて、アムネスティ日本は日本政府の難民政策が国際人権基準に照らして極めて限定的にしか、難民を受け入れない傾向と無縁ではないと考える。アムネスティ日本は、日本政府とりわけ法務省が難民手続きの整備をはかり、国際人権基準に適合する方向で現在の難民政策を変更すること、さらに外務省を含めた政府部内へその徹底をはかることを求める。
 現在、在外領事機関において、亡命希望者に庇護を与える権限・義務、あるいはそのような状況に対応するための国際的取り決めが存在していない。しかし、各国政府はこれまでも慣習的に領事機関において庇護を与えてきた。現在、領事機関における庇護希望者の数は増加傾向にあり、これら庇護希望者を保護する早急な対応措置が必要である。直面する重大な人権侵害から庇護希望者を保護することは、世界人権宣言をはじめとする国際人権基準に定められた各国政府の責務を果たすことになる。
 これまで、他国の領事機関が庇護を与えてきた事実からも、重大な人権侵害に直面し、庇護を求めて来た人々に対し、充分な保護を与えようとする日本政府の積極的な努力がみられなかったことに、強い遺憾の意を表明する。日本政府に対し、いかなる場合であっても、人々の基本的人権の保護について、とり得る全ての手段により、これを確保する努力を要請する。

 


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