入管・難民法改正に向けたフォーラム
Q&A 「亡命者」「難民」とは何でしょう
〜国際的な難民保護制度について理解を深めることが、難民に関する議論の前提〜


 
 

 「難民」の受け入れをめぐる議論は、とかく情緒に流れがちです。
とくに「難民を際限なく受け入れなければならないのではないか」といった不安によって、
難民受け入れに対して過剰な警戒感を抱く人が少なくありません。
感情に流されない冷静な議論をするためには、
「難民」をめぐって積み重ねられたこれまでの経験を知ることが大切です。


Q:難民ってどんな人のこと?
A:1951年に制定された難民条約では、「難民」の定義は以下のようなものです。
 ○国籍国の外にあり、
 ○人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見を理由とする、
 ○迫害を受ける十分に理由のあるおそれが存在するために、
 ○国籍国の保護を受けることができず、または国籍国の保護を受けることを望まない者。
 つまり、国籍国によって迫害を受ける恐れがなくてはならず、また、その理由が「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、政治的意見」の5つの理由のうちのいずれかにあてはまらなければならないのです。この条件に当てはまる人たちのことを、「条約難民」とよびます。
 今回、シェンヤンで日本総領事館に逃れた一家は、父親が「独裁者」批判をしたことから北朝鮮当局に拘束され、行方不明となったため、中国に逃れた上で帰国したところを逮捕され、強制収容所に送られた経験があるという報道があります。こうした報道から考えれば、彼・彼女らが「条約難民」にあたる可能性は高いといえるでしょう。
 ちなみに、「難民条約」の定義によれば、強盗をしたために刑事罰を受ける可能性があるという理由で他国に逃れた人は、迫害の理由が上記の5つに当てはまらないため、難民条約上の難民とはいえません。また、火山の噴火や洪水、台風などで生活基盤を破壊され、他国に逃れた人は、「迫害」をうける恐れがあるわけではありませんので、「条約難民」には該当しません。


Q:「経済難民」という言葉をよく聞くけど、「条約難民」とどう違うの?
A:難民条約の上では、「難民」とはあくまで、特定の理由に基づく迫害にさらされたり、迫害の恐れから国を逃れた人々のことです。経済的に困窮して他国に移動せざるを得なくなった人々のことをさして「経済難民」という言葉が使われることがありますが、これらの人々は「条約難民」には含まれません。ちなみに「経済難民」とは、80年代に中国などから船で日本にたどり着いた人々に対して、ベトナムからのボートピープルの人々と区別して「この人たちは、迫害を受けていないから『本当の難民』ではない」というイメージを植え付けるために一部マスコミなどが作り出した言葉であり、難民問題や移民問題を正面から見つめたり、難民や移民に関する法制度のあり方などを検討する上では適切な概念とは言えません。

Q:「経済難民」と「条約難民」を区別するのは難しいというのは本当?
A:人が他国に移動する理由はたくさんあります。経済的な困窮によって、または自分の能力を生かせる新天地を求めて他国に移動・移住する人々は、一般に「移民」と言われます。かつて日本は、ブラジルやハワイ、カリフォルニアなどにたくさんの移民を送り出してきました。
 一方、「難民条約」に象徴される現代の難民制度は、もともと欧米において、1917年のロシア革命で誕生したソ連から逃れてきた人々や、ナチス政権による迫害から逃れてきたユダヤ人たちを庇護してきた経験から生まれたものであり、特定の理由に基づく迫害にさらされたり、その恐れから国を逃れてきた人々を保護するために設けられたものです。最近では、社会的な差別や暴力的な社会慣習による迫害から逃れてきた人々なども「難民」として認めるようになってきていますが、あくまで「迫害」の存在が前提です。
 日本でよく使われる「経済難民」とは、80年代に中国などから船で日本にたどり着いた人々に対して、ベトナムからのボートピープルの人々と区別して「この人たちは、迫害を受けていないから『本当の難民』ではない」というイメージを植え付けるために一部マスコミなどが作り出した言葉です。この言葉は、難民に対して使われる場合「本当に難民なのか」という疑念を、また移民に対して使われる場合には、「難民」という言葉の持つおどろおどろしいイメージを喚起するために使われてきており、難民問題や移民問題を客観的に見つめたり、難民・移民に対する法制度のあり方を正面から検討する上では、決して適切な概念とは言えません。

Q:難民受け入れ政策をとると、際限なく難民を受け入れなければならないの?
A:まず大前提として、わが国は他のすべての先進国と同様、難民条約に加盟しています。難民条約に加盟している以上、条約上「難民」の定義に当てはまる人(条約難民)を難民として受け入れることは条約上の責務です。
 しかしそのことは、難民でない人も「難民として」受け入れろ、ということとは違います。難民を積極的に受け入れる政策をとるということは、難民に関する審査を難民条約に基づいた透明かつ客観的なものとし、本来「条約難民」にあたる人々が排除されることのないようにするということを意味します。それ以外の人をうけいれるかどうかは、移民政策という、より広い枠組みの中で議論されるべきことです。
 欧米の主要国では、年間数千〜数万の人々が難民として受け入れられていますが、審査の結果、難民として認定されないケースも相当数に及んでいます。これを見ても、積極的な難民政策がすなわち「際限なき『難民』受け入れ」につながるわけではないことははっきりしています。

Q:たとえば北朝鮮が崩壊して十万単位で人々が押し寄せてきたらどうするの?
A:国家崩壊による混乱から逃れてきた人々は、必ずしも「条約難民」とは限りません。ですから、これは、難民条約にいう「難民」の受け入れとは別の問題です。こうした事態にどう対処するかという問題は、難民政策を積極的な方向に転換していくこととは分けて考えなければなりません。
 もちろん、こうした状況が到来したらどう対処するかは真剣な検討が必要です。しかし、そこで考えなければならないのは、グローバル化する現代世界の中で、ひとりわが国だけが、危機に伴う急激な人口移動に対する国際的責任を回避することはできないということです。アフガニスタンの国家崩壊にともなって、イランとパキスタンは、それぞれ百万単位のアフガン人たちの国内流入を認めました。北朝鮮に関して言えば、中国は北朝鮮難民の存在を認めない姿勢をとりつつ、実際には30万人にも上る「脱北者」の流入を許しているのです。わが国だけが門戸を閉ざすことができるというのは、国際的な常識に照らしても通用しない考え方です。
 そうであるならば、わが国が今できることは、このような事態が生じた場合に備え、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や緊急援助活動を行うNGOなどと協力しながら、各国が合理的な形でこれらの人々に対する一時庇護を分担して担うことができる仕組み作りをきちんと検討しておくことです。「×十万人きたらどうする」などといたずらに危機を煽って難民・移民政策の見直しを遅らせることは、現在わが国が置かれている国際的な位置づけや役割に対して目をつぶることに他ならず、結局、わが国の危機管理政策にとっても大きなマイナスになるだけです。

 
 

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