自由民主党 2002年7月10日発表
 

自由民主党

わが国の取るべき難民対策の基本的な方針(案)


 

平成14年7月10日
自由民主党政務調査会
亡命者・難民等に関する検討会

はじめに

 わが国の難民対策は、昭和50年代、ベトナム・ラオス・カンボジアのいわゆるインドシナ三国から、政治体制の変革に伴い、周辺地域へ大量の難民が流出したことを契機としている。政府は、国際社会からの要請もあり、人道的観点からインドシナ難民として現在まで特別に1万人強の難民を受け入れた。
 難民が国際的な問題となる流れの中で、わが国は、「難民の地位に関する条約」及び「難民の地位に関する議定書」に加入し、「出入国管理及び難民認定法」を制定、昭和57年から難民認定制度をスタートさせた。これによって認定された難民は、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会集団の構成員であること又は政治的意見を理由に、国籍のある国から迫害を受けるおそれがある者」との条約等の定義に準拠していることから、「条約難民」と総称されている。わが国は、この難民認定制度によって認めた者に定住許可を与え、難民として受け入れることを基本としている。いわゆる亡命者は、政治的理由で他国に庇護を求める者とされ、難民条約に定める「政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがある者」に該当する者は条約難民と解されている。インドシナ難民については、難民認定制度が発足した以降も、条約難民とは別に受け入れを行っているが、平成17年に受入れを終了する見通しである。
 なお、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)及び国連人種差別撤廃委員会等から、インドシナ難民と条約難民に対する国内での処遇の差異を改めるべきとの勧告等を受けている。
 一方、先般の瀋陽総領事館事件を契機にして、難民問題をめぐる国民の批判、関心が高まるとともに、「潜在的な難民」ともいわれる中国北部における「脱北者」の存在が大きくクローズアップされることになった。
 今、このような事態に即応し、わが国の難民対策を見直すことは喫緊の課題である。このため、わが党ではいち早く「亡命者・難民等に関する検討会」を設け、「条約難民」と遊難民等を含む「広義の難民」に関する諸課題について、今日まで真剣な協議を重ねてきた。当検討会の取りまとめは以下の通りである。

1.条約難民への適切な対応

条約難民への対応策として、下記事項において早急に是正する必要性がある。

(1)認定等の円滑化・迅速化
 難民認定申請期間については、いわゆる60日間ルールのみで不認定としていない現在の運用事態を考慮し、180日に延長すべきである。その際、難民認定の可否理由の明確かに努めつつ、乱用等を阻止すべきことは言うまでもない。また、申請中の者に対しては、保護施設への入所を前提にした在留資格を付与することとし、異議申立てについては、第三者の関与を組み合わせることによる透明性・公平性の確保を図るべきである。
 同時に、難民調査官等の人的体制の強化を図るべきである。

(2)在外公館における難民認定希望者への適切な対応
 難民認定希望者への人道的対応に配慮しつつ、在外公館と外務・法務本省との連携強化を図ることが肝要であり、いかなる者を保護するか等について外務省・法務省において検討し、初動対応マニュアルを整備する等、具体的な対応措置を講ずるべきである。

(3)難民支援体制の拡充
(a)難民認定申請者の保護施設の整備
人道的配慮を要する申請者に対し、衣食住や医療を提供し最低限の生活を保障するとともに、難民認定調査を集中的かつ迅速に行うためにも、申請者は保護施設に入所することを原則とすべきである。そのための保護施設を早急に整備することが不可欠である。申請者の入所は原則であって、逃亡の恐れがなく悪質な行為をする懸念もない自立した生活を営むことが可能な者については、在宅での申請手続きを認めることとする等、柔軟な運用に努めることとする。
他方、保護施設を手当てするだけでなく、その施設が適切に運営されなければならないことは言うまでもない。このため、当面は現在インドシナ難民支援を行っている「アジア福祉教育財団」のノウハウを活用するとともに、品川の国際救援センターを再整備することとし、申請者の増加動向等を踏まえながら、運営機関の独立行政法人への移行、および施設の拡充等について改めて検討する必要がある。
(b)難民認定者に対する定住促進支援の実施
難民と認められた者については、日本語教育・職業訓練等、日本社会に溶け込むために必要な初動支援を行うべきである。
(c)難民支援の民間団体等との連携強化
難民認定者の定住化等を支援するためには、広く国民に難民問題の理解を求めるとともに、外務・法務省等関係省庁の調整機能を実務レベルで確立し、NGO等の民間団体、地方自治体との連携を強化することが不可欠である。
このため、難民支援事業を実施する政府委託機関に、「相談センター」等を設置することにより、難民認定者個人、NGO等民間団体、あるいは各地方自治体などからの問合わせに対応することとし、積極的な定住者支援を図るべきである。

(4)難民問題に関する関係省庁間の調整機能の強化

 条約難民または広義の難民に関する諸課題に関して、政府としての総合的な対策、政策立案を行なうために、現存する「インドシナ難民対策連絡調整会議」の改組を含め、内閣官房に関係省庁間の連絡調整機能を設けるべきである。
※予算措置
 関係省庁は難民支援にあたっての必要な予算について、可能な限りこの夏に概算要求すべきである。

2.広義の難民への対応

 現在、中国北部地域には相当規模の脱北者が存在しているともいわれ、今後、大量の難民として近隣地域に流出する恐れがある。その際には、条約難民を中心とした上記対応では対処しきれないことが十分に予想される。
 このため、政府としても、現段階から脱北者問題等への対応をあらゆる見地から検討すべきであり、国際社会とも連携して問題解決に努めるべきである。

(1)国際的枠組み構築への働きかけ
政府は、UNHCR等の国連機関に対して積極的に働きかけを行ない、脱北者に対する国際的枠組みの構築に努めるべきである。

(2)関係国へのアプローチ
政府は、関係国である米国・韓国・中国などとともに、問題解決に向けて協調体制の確立に努め、特に、難民条約に加盟しながら難民認定制度を未だ制定していない中国に対し、関係国や国連機関と連携して事態の改善を促すべきである。

 



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