庇護希望者への庇護のあり方を考えるデータベース


  シェンヤン日本総領事館事件関係

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2002年5月10日 共同通信

 


お粗末対応浮き彫り  物ごいと思ったと外務次官

 中国・瀋陽の亡命者連行事件をめぐり、政府の緊張感を欠いたお粗末な対応が十日、外務省が発表した資料や関係者の証言などから浮き彫りになった。
 政府は「主権侵害」を防げなかったという批判の拡大防止に躍起。小泉純一郎首相が当初、中国への穏便な姿勢を見せれば、外務省も総領事館職員が機敏に対応しなかった理由について、竹内行夫外務事務次官が「日ごろから物ごいが来ていた」と自民党幹部らに弁解するなど言い訳に終始している。
 外務省の資料によると、事件が発生した八日午後三時ごろ(以下、すべて日本時間)の状況について、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の住民「二人」が総領事館構内に入り、残り「三人」は正門前で取り押さえられた、と明記した。
 しかし事件当時の様子を映し出したビデオを見た福田康夫官房長官は十日の記者会見で「映像を見ると総領事館に入ったのは五人」と断言。首相官邸と外務省で敷地内から連行された北朝鮮住民の人数が食い違う事態になった。結局、川口順子外相がその後の記者会見で人数を訂正、外務省の事実確認の甘さを露呈した。
 外務省が総領事館からの一報を受けたのは発生から三十分後の午後三時半。しかし、中国の日本大使館に中国政府に抗議するよう指示したのは約二時間後の午後五時半。結局、事件発生から約四時間後の午後六時四十分になってようやく高橋邦夫公使が中国外務省に抗議した。
 外務省から首相官邸への連絡も遅れた。福田官房長官は十日の記者会見で、事件を知ったのは「八日午後六時半すぎ」と明言。福田長官は「小泉首相も六時まで(国会で)委員会審議があった」と指摘、発生から約三時間以上、首相サイドにも報告がなかったとの見方を暗示した。
 政府内からは、中国への抗議を行ったのが阿南惟茂駐中国大使でなかったことに「阿南大使は(中国に配慮して)中国側と善後策を協議していたのでは、と疑いたくなる」(政府筋)との批判さえ出ている。阿南大使が中国政府に抗議をしたのは、丸一日以上たった九日午後七時だった。
 一方、首相が当初、事件を穏便に収拾しようとした節もある。八日夜、記者団に「よく調査して冷静に慎重にやりなさいと言ってある」と明かし、穏便な対応を指示した。
 だが一夜明けて国民世論などの批判を感じた首相は、九日午後の中国人民政治協商会議の胡啓立副主席との会談で「誠意ある対応を求めたい」と申し入れた。同日夜には中国の行為について「(ウィーン条約に)違反している」と批判のトーンを強め、前日との違いを見せた。

 

 

2002年5月13日 東京新聞 

身元不明者すべて拒否 亡命対応「詳しいマニュアルない」

【瀋陽(中国遼寧省)12日渡部圭】北朝鮮の男女五人が駆け込んだ中国・瀋陽の日本総領事館は、亡命希望者も含め身元不明者はすべて敷地に入れない方針をとっていたことが、十二日分かった。当地の外務省関係者が明らかにし、日本のほかの在外公館も同様の対応だという。
 米国などが人道上の理由から亡命希望者を受け入れる姿勢をとっているのとは対照的。総領事館の職員が中国の武装警察の行動を阻止できず、五人が中国側に連行される結果になったのは、職員らにこうした原則的な考え方があったからとみられる。
 日本政府は政治亡命は受け入れないのが原則で外務省関係者は「身元の分からない人は、どんな人も受け入れないのが大前提だ」と話した。
 今年になって北京のスペイン大使館などに北朝鮮の亡命希望者が相次いで駆け込んだ後、日本政府は、特に中国内の公館には「気をつけるよう」と注意を喚起していた。
 また、亡命希望者などが実際に公館内に入ってきた場合の対応について、「一般論として(外国公館の不可侵を認めた)ウィーン条約はあるが、詳しいマニュアルはない」と述べた。


2002年5月15日 共同通信 

阿南大使が「不審者、入れないように」

 瀋陽事件の朝 中国・瀋陽の総領事館事件の起きた8日の朝、北京の日本大使館での会議で、阿南惟茂大使が、続発している朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)住民の駆け込み事件に関連して「不審者を敷地内に入れないように」という趣旨の発言をしていたことが14日、わかった。総領事館事件発生後、副領事が大使館の指示を求めており、大使発言が事件の対応に影響を与えた可能性が指摘されている。
 大使館関係者によると、8日午前10時から開かれた大使館の全体会議で、阿南大使は「警備を振り切って大使館に入って来たら不審者であり、中に入れる必要はないだろう。テロのことも忘れないように。人道的問題になれば、私が責任をとる」と語ったという。
 総領事館事件はこの約4時間後に発生。外務省の調査結果では、総領事館に入り込んだ中国の武装警察隊に対応した副領事たちは総領事の指示もあって日本大使館の公使に2度以上、連絡をとっている。公使が対応を考えるにあたって、同日朝に示されたばかりの大使発言が一定の影響を与えたのではないか、との見方が大使館内にも出ている。
 会議では特に反対する意見もなかったといわれる。大使館員の中に「テロを意識するのは当然」との受け止めがある一方で、北朝鮮の住民への対応としては踏み込みすぎと感じる人たちもいたという。   

◇北京の日本大使館が14日夜、発表した大使館会議での阿南大使の発言は以下の通り。
 脱北者(北朝鮮脱出者)は中国へ不法入国しているものが多いが、館内に入った以上は人道的見地から保護し、第三国への移動など適切に対処する必要がある。他方、テロへの対処からも警戒を一層厳重にすべきことは当然で、不審者が大使館敷地に許可なく侵入しようとする場合は阻止し、門外で事情聴取すべきだ。


2002年5月15日 毎日新聞
 

 

副領事、男性の手紙を読んで返す? 中国側指摘

 中国外務省の孔泉報道局長は14日、瀋陽の総領事館事件について、日本の警備担当副領事が、総領事館に駆け込んだ男性から手紙を受け取った、と述べた。この手紙は、男性が携えていたとされ、迫害を恐れて米国亡命を求める英語と朝鮮語の文書と見られる。孔局長の発言通りなら、総領事館側は途中から5人が亡命希望者と把握していたことになる。
 孔局長によると、5人が正門わきの詰め所に集められた際、男性の一人が「我々は一家だ」と語り、手紙を警備担当副領事に手渡した。副領事はこれを読んだ後、男性に返したという。
 亡命を支援した韓国のNGO(非政府組織)関係者によると、一家は「北朝鮮に戻ることは、迫害と拷問と死を意味する」などと書かれた文書を持っており、副領事が読んだ手紙は、この文書の可能性が高い。
 外務省の説明では、副領事が警察詰め所で男性の一人に国籍をたずねるなどし、北朝鮮から来た家族だとわかった、としていた。亡命意思を把握していたかどうかについて外務省の調査報告書は触れていない。
 孔局長によると、副領事はこの後、2カ所に電話した後、「連れて行っていい」と言い、謝意を示したという。日本側の主張では、副領事が5人を移動させないよう求めたが、「無理はするな」との上司の指示を受けて抵抗をあきらめたことになっている。    


 これに対し日本外務省は14日夜、警備担当の副領事が、武装警察官の詰め所で5人のうちの1人の男性から英語でタイプされた「紙片」を見せられたと発表した。副領事は、「内容が理解不能なので、本人に返した」と説明しているという。

 

 


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