入管・難民法改正に向けたフォーラム

日本の現在の亡命希望者・難民受け入れ制度はもう限界
〜法改正による抜本的な見直しを!緊急提言〜
  

難民の受入れのあり方を考えるネットワーク(準備会)
2002年6月11日



 
 

 5月8日、中国・瀋陽(シェンヤン)の日本総領事館に亡命を求めて駆け込んだ北朝鮮出身者の一家5名が中国当局に拘束された事件は、これまでわが国がとってきた亡命者・難民受け入れのあり方が限界に達していることを、国際社会に強く印象づけました。スペインや米国の総領事館が、北朝鮮出身者に庇護を与えたのと対照的に、副領事を始め日本総領事館の職員たちは、侵入した中国の武装官憲に毅然とした態度をとることができず、亡命を希望した一家5名を守ることができなかったのです。
 なぜこのようなことになったのでしょうか。在外公館への亡命者を人道的に処遇する方針が確立されていれば、総領事館の職員たちは中国官憲に対してもっと毅然とした態度をとることができたでしょう。しかし、実際には、こうした亡命者に対する人道的処遇や保護に向けての方針はまったくありませんでした。そのかわりに存在していたのは「不審者は一切敷地内に入れない」とする警備方針でした。総領事館の職員たちの消極的な態度の背景には、亡命者・難民排除の方針があったのです。
 政府は現在、在外公館の警備方針の見直しや亡命者の処遇に関する指針の策定などを検討しています。しかし、それでは不十分です。
 
 昨年から今年にかけて、戦火と圧政のアフガニスタンを逃れてわが国に来て難民認定申請をした数十人のアフガニスタン人たちが認定されず、さらにアフガニスタンへの強制退去命令(退去強制令書)をうけて長期間にわたって収容されるという事件が起こりました。これに対して、アムネスティ・インターナショナルなど有力な人権NGOが収容に反対する緊急行動を行い、さらには国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)までが長期収容に懸念を表明するなどの事態となりました。今回のシェンヤン事件は、この事件と根を一にしています。わが国がこれまでとってきた「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の運用と亡命者・難民政策は、内外からつねづね「閉鎖的」と批判されてきました。今回のアフガニスタン人難民や北朝鮮出身者の件が私たちに教えてくれていること、それは、グローバル化の流れの中で、閉鎖的な亡命者・難民政策はもはや時代遅れとなっていること、そして、亡命者・難民政策の改革は付け焼き刃ではなく、入管・難民法の改正を含めて抜本的に行われなければならないということです。
 私たち「難民の受入れのあり方を考えるネットワーク(仮称)準備会」は、今回の瀋陽事件を受け、出入国管理及び難民認定法(以下、入管難民法)の改正などによる亡命者・難民政策の抜本的改革に向けて、下記の緊急提言を行います。5月21日の参院法務委員会では、森山真弓法務大臣も旧来の難民認定制度について「いろいろ反省すべきこともある」と述べました。政府は、当事者である難民認定申請者の主張に耳を傾け、早急に改革を実現すべきです。

緊急提言(草案)

 在外公館に庇護の希望をした者(庇護希望者)に対して、在外公館は、その者に庇護を付与する必要性を調査し、その調査の間在外公館内にとどまることを認めるべきである。
 在外公館の所在する国が当該庇護希望者に拷問を加えるおそれがある場合や、当該庇護希望者が難民であるのに、在外公館の所在する国が迫害国に送還するおそれがある場合など、庇護を付与する必要がある場合には、在外公館は当該庇護希望者を在外公館の所在する国に引き渡したり、同国官憲による検挙に便宜を与えたりしてはならない。

 いわゆる「60日ルール」(入管難民法61条の2第2項。原則として入国後60日以内に難民認定申請をしなければならないとする規定)を理由として、本来難民として庇護を受けるべき人に対し難民認定をしない運用は、多くの難民に難民認定申請をためらわせている。この条項の撤廃など、申請期限を形式的理由とする不認定処分がされないような措置を講ずるべきである。

 空港や港で庇護の希望を表明した者が、言語や制度の不知等の問題による困難に直面することなくスムーズに庇護の必要性についての審査を受けられるよう、また、審査のための上陸を認められるようにするべきである。また、在留資格がない状態で難民認定申請を行った者が難民認定手続と並行して退去強制手続の対象となることのないように、制度面・運用面での改善を行うべきである。さらに、庇護希望の表明を受ける可能性のある公務員について、審査制度の周知徹底と、当該庇護希望者が難民認定申請を行い、適正な審査を受けることができるようにとりはからう義務を具体的に定めるべきである。

4 入国審査官が難民調査官を兼ねるなどの、出入国管理行政に従属した難民認定に関する現行の組織と制度を改め、難民認定手続および難民不認定処分に対する異議申出手続については、政府から独立した第三者機関を設けてこれを審理すべきである。

5 難民認定のプロセスにおける透明性を確保するため、難民不認定処分(異議申出に理由がないとする処分も含む)の通知書において、事実の判断(証拠の評価を含む)および難民条約の解釈上の判断を含む不認定の理由を具体的に記述し、本人に開示すべきである。

 外国人の収容に関しては、期限の定めがない点や収容の必要性を審査しない「全件収容主義」のもとに運用されている点など、憲法および国際人権諸条約に違反する疑いのある現行のあり方を改め、法で収容の要件と期間を具体的に定めるべきである。また、現実の運用においても、収容がどうしても不可避な場合において、必要最小限の期間に限って行うこととし、法定期間内に送還が執行できなかった場合、およびできないと予想される場合には、速やかに収容を解くべきである。また、収容に際しては、上記要件に従った収容の理由および期間・期限を、被収容者本人の理解できる言語で書かれた文書(本人が非識字者である場合には、本人の母語による読み聞かせ)によって本人に開示すべきである。
 さらに、当該外国人が難民認定申請者であり、申請の審査中だったり、異議申出の審査ないし難民該当性を争点とする訴訟が係属している場合には、原則として身体拘束をしてはならず、例外的に身体を拘束する場合についても、訴訟の口頭弁論期日等への外国人の出廷(出頭)の権利を保障するべきである。

                                      以上

 
 

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