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Review: 『APPEARANCE 写真表現と現代空間の深層』 @ 代官山ヒルサイドテラス ヒルサイドフォーラム
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/10/21
代官山ヒルサイドテラス ヒルサイドフォーラム
2007/09/27-10/20 (会期中無休), 10:00-19:00.
Oliver Boberg, Candida Höfer, Armin Linke, 大島 成己 (Naruki Ohshima).

建築写真というより、建築を題材とした作家性の強い写真作品の展覧会だ。 『サイト・グラフィックス』 (川崎市民ミュージアム, 2005; レビュー) で取り上げられた風景写真の建築写真版、というか、 画面のグラフィカルな構成を強調したような写真の展覧会だ。

この手の写真のルーツの一つは Bernt & Hilla Becher (関連レビュー) だが、 Becher schule の一人 Candida Höfer の写真は、建築の内部を無人で撮影したもの。 "Ballettzentrum Hamburg III" (2001) では、 フロアに置かれた一脚の椅子と画面を水平に横切る手摺りが 辛うじてそこがバレエスタジオと気付かせる。 "Fundação Bienal de São Paulo I/II" (2005) にしても、 手摺りや柱の養生が サンパウロ・ビエンナーレのパビリオンが展示換え中であることをさとらせる。 このように、建築の目的や状況を人を写さずに物の気配で写し込む所が面白い。 同じく Becher schule の Thomas Struth が "Museum Photographs" シリーズにおいて 美術館内部を観客を含めて撮ることでその空間のイデオロギーを炙り出したことを、 人を写すことなくやってみせているようで、そこが面白い。

Becher schule の Thomas Ruff に師事していたという 大島 成己 の作品は、 現代の建築に多いガラス張りの空間を そのガラスの反射や映り込みを捉えることによって表現したものだ。 こちらも、何重にもなった映り込みを捉えているのに、 撮影者自身を含めて全く人影が写り込んでない。 そんなこともあって、実際にある空間を写しているのにもかかわらず、 非現実的な雰囲気を醸し出しているのが面白かった。 ちなみに、写真はデジタルのプリントだった。

Oliver Boberg の作品は、自作した建築模型をいかにも実際の建物かのように撮影したもの。 多くはコンクリート作りの建物 (とその崩壊物) で植物などが少いこともあってか、 デジタル写真のプリントの粗さに助けられたか、 そのリアリティ作りにはある程度成功している。 模型写真に実寸らしさを作り出すには、 模型自体のリアルさや、実寸大ならではのアングルだけでなく、 ほぼ全体にフォーカスが合った画面も重要だ。 このフォーカスの問題をどう解決したのか、観ていて気になった。 単に画面の粗さにごまかされているのか、デジタルでシャープ化等の処理をしたのか、 それともそれ以外の何かなのかは判らなかった。

Armin Linke の作品は、 写真のシーケンスをて5つの写真本に製本し、 それを捲るという形で観賞するというもの。 この展示での製本というプレゼンテーションだけでなく、 自身のウェブサイトでも、"a book on demand" という 写真アーカイヴから観賞者の選択でインタラクティブに本を作るプロジェクトもやっている。 写真そのものが作品というより、写真の集積とその操作に関する作品と言えるだろう。 この展示でも、複数の本で重複する写真があったり、粗いデジタル写真が交じったりと、 ひっかかる所がいくつかあった。しかし、その狙うところは掴みかねた。

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