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Review: 内藤 礼 『明るい地上には あなたの姿が見える』 Rei Naito: on this bright Earth I see you @ 水戸芸術館現代美術ギャラリー (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/09/02
Rei Naito: on this bright Earth I see you
水戸芸術館現代美術ギャラリー
2018/07/28-2018/10/08 (月休;9/17,9/24開;9/18,9/25休), 9:30-18:00 (9/1-10/8 9:30-17:00)

『信の感情』 (東京都庭園美術館, 2014) [鑑賞メモ] 以来となる国内での 内藤 礼 の個展。 前回の個展では繊細なインスタレーションで感覚を研ぎ澄ますようなインスタレーションが無かった。 この展覧会ではミニマリスティックなインスタレーションが多くあり、久しぶりに感覚を研ぎ澄ますような鑑賞が楽しめた。 こんな展覧会は『すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』 (神奈川県立近代美術館鎌倉, 2009) [鑑賞メモ] 以来だろうか。

会場入ってすぐのインスタレーション「母型」 (2018) は細く白いテグスで直径数mmのスフレビーズ (透明な樹脂の玉) とを複数ある一定のエリアに疎らに垂らしたもの。 エリアの前後を締めるようにやはり直径1〜2mmのシルバーの鈴を垂らしていた。 テグスがあまりはっきり見えないので、空間が微かに発泡しているよう。

自然光のみの陰影のあるギャラリー空間に、 小さな鏡や木製の人型、垂らした白い風船、水を張ったガラス瓶など、 光の微かなきらめきや微かな空気の流れを意識させるようなインスタレーションは相変わらず。 また、がらんとした3番目のギャラリーに細い糸を2本垂らしただけという「無題」 (2018) や、 最後の薄暗いギャラリーの奥の高さ2〜3mの所に細い白糸と小さな白ビーズで疎なリングを2つ吊るした「Two Lines」 (2017) のような、 この辺りにあるはずだと意識的に目を凝らして探さないと見えないような作品もあった。

長い通路状の展示空間は窓がほとんど潰されて薄暗くなっていたのだけれど、 一箇所中程の高さ2mくらいの所に開けられた小窓「窓」 (2018) から入る光の繊細も良かった。 ガラスに白枠を付けて木製の人形などを配したものを壁にかけた「窓」と題された作品が10点あり、 この薄暗い長い空間にも2点展示されていたのだけれども、 遠目に見ると奥から入る光を反射してガラスが煌めき、まるで窓が開いているかのように見えたのも美しかった。

他にも、『信の感情』にもあった白いキャンパスにうっすら色が浮かぶような作品「color beginning」シリーズ、 ステンレス製の白い小さな水路に息を吹きかけ生じる波紋を観る「タマ/アニマ(わたしに息を吹きかけてください)」 (2018) のような、 繊細なミニマリズムを楽しむような作品が多いのだが、 そんな中、モデルの女性が写った白黒グラビアの雑誌の頁をくしゃくしゃにした上で壁に吊るした 「顔(よろこびの方が大きかったです)」に感じられた微かなキャンプ風味が、その意図が掴みきれないながら、少々気になった。

最後のギャラリーに、観客が持って帰ることができる白い丸い薄紙が置かれている。 ギャラリーは薄暗くて光にかざして見ても何か書かれているように見えなかったが、 一通り観た後のカフェでスマートフォンのカメラで撮って拡大して、何が書かれているのかやっと読むことができた。 寡黙なインスタレーションに静かに目をやり、そのささやかなな煌めきを眺めているうちに、こちらへ「おいで」と誘われていたのかと。そんな気になった鑑賞体験だった。