コンテンポラリーダンスの文脈で活動するバングラディシュ系イギリス人振付家 Akram Khan の久々の来日公演です、 2018年に子供向けの Chotto-Desh 公演 [鑑賞メモ] はありましたが、 実質、2013年の Desh [鑑賞メモ] ぶりです。 Disney がアニメーション化もしているイギリスの作家 Rudyard Kipling の児童文学短編集 The Jungle Book (1894) の “Mowgli's Brothers” と “Kaa's Hunting” をベースに 主人公 Mowgli を少女に、舞台を温暖化による海面上昇で水没しつつある廃墟となった都市と置き換えて自由に翻案した物語を、 今回は自身は踊らないものの、11人のダンサーを使いスケール大きく物語ダンス作品としていました。
廃墟となった都市で母親とはぐれた少女 Mowgli のサヴァイヴァル冒険譚ですが、その世界はまさにポスト・アポカリプス (終末後の世界)。 狼の群れに育てられた後、黒豹 Bagheera と熊の Baloo を保護者的な相棒として冒険に出ます。 途中、Bandar-log のサルのたちの国に攫われてしまいますが、そこはまさにディストピア。 Bagheera や Baloo、敵か味方が微妙なニシキヘビの Kaa らに救出されますが、Mowgli は人間の世界へ戻ることにします。 しかし、銃撃で Bagheera や Baloo は殺され、更に水没が進んで人々は高台へ逃れ、と、厳しい将来を予想させつつ終わりました。 そんなディストピアに抵抗するポスト・アポカリプス物の展開に、そこまでハードでは無いものの Furiosa: A Mad Max Saga [鑑賞メモ] 味を感じてしまいました。 また、水没する都市や紛争のイメージに、数十万人の犠牲者がでた1970年バングラディシュのボーラ・サイクロン (1970 Bhola cyclone) による高潮と、その後のバングラディシュ独立戦争を連想もしました。
バングラディシュの森を思わせる線画アニメーションを使った演出は Desh を思わせるものがありましたし、 半ばテクスチャ化されたセリフやナレーションに合わせてのダンスに Zero Degree [鑑賞メモ] を思い出しもしました。 マーシャルな動きを使った戦闘シーンはもちろん、主人公以外は動物ということで動物の動きに着想したダンスが多用されていましたが、そこは特に動物に拘らなくてもよかったのでは無いかと思ってしまいました。 一方で、Akram Khan が得意とするカタック (kathak) 的な動きは印象に残りませんでした。 斬新な表現手法を試みているというより、地球温暖化による海面上昇や大規模な生物種絶滅、社会の分断などの現代社会の問題を The Jungle Book を通して語るために、今までの作品で培ってきた様々な表現手法を駆使しているように感じられました。
最近の Akram Khan は English National Ballet への振付演出の仕事もしていますが、 ストリーミングで観る機会のあった Giselle (2016) [鑑賞メモ] や Creature (2022) [鑑賞メモ] も、現代的でダークなディストピアの物語として古典的な物語を翻案した物語バレエでした。 Akram Kahn 振付でも English National Ballet でもないですが、 Northan Ballet による Jonathan Watkins 振付・演出の 1984 (2015) [鑑賞メモ] というのもありました。 今回の Jungle Book reimagined はバレエのイデオムはほぼ全く使っていませんでしたが、 翻案物の物語バレエ/ナラティブダンスに連なるような作品、物語バレエに強いイギリスの伝統に連なる作品なのかもしれません。