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Review: 『積層する時間 この世界を描くこと』 @ 金沢21世紀美術館 (美術展); 『コレクション展1 マテリアル・フィーバー』 @ 金沢21世紀美術館 (美術展); Janet Cardiff: The Forty Part Motet @ 金沢21世紀美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2025/09/06
Layers of Accumulated Time: Depicting the world we live in
金沢21世紀美術館 展示室7-12,14
2025/04/29-2025/09/28 (月休;5/6,7/21,8/11,9/15開;5/7,7/22,8/12,9/16休), 10:00-18:00 (金土-20:00).
浅井 裕介, Sam Folls, 藤倉 麻子, 今津 景, 風間 サチコ, William Kentridge, Anselm Kiefer, 近藤 亜樹, 松﨑 友哉, 西村 有, Gerhard Richter, Citra Sasmita, Wilhelm Sasnal, Tu Pei-Shih, Luc Tuymans, Ebosi Yuasa.

近代の歴史や記憶、現代の社会問題に着想した作品を集めた現代美術の展覧会です。 といっても、現代美術はそのような作品が多いので、特に強い方向性を感じる程では無かったでしょうか。 Gerhard Richter や Anselm Kiefer などの有名どころも展示されていましたが、 ポーランドの作家 Wilhelm Sasnal による、現代南米の社会問題に取材しその報道写真的な構図を使いつつも、 抽象度を上げてシルクスクリーンのようにフラットな質感の油彩として仕上げた一連の作品 (2019-2023) が印象に残りました。

2012年のDocumenta 13で観た William Kentridge: The Refusal of Time (2012) [鑑賞メモ] を再見することができましたが、 Documenta 13とはかなり異なる印象を残しました。 抽象的なアニメーションも交えつつ、マイムやダンスの実写やそのストップモーションによる映像投影を使い、 イマーシヴなパフォーマンス作品をインスタレーションとして再構成したものを観るようでした。 これも、現代美術の文脈よりオペラの演出で Kentridge の作品を観る機会が増え [鑑賞メモ]、 また、空いたギャラリーで腰を据えて通して観ることができたからでしょうか。 Peter Galison: Einstein’s Clocks, Poincaré’s Maps — Empires of Time (2003) [ピーター・ギャリソン『アインシュタインの時計 ポアンカレの地図 — 鋳造される時間』 (名古屋大学出版会, 2015)] に着想したと思われ、帝国主義の時代 (19世紀後半から20世紀初頭) における時間の標準化をテーマとしているのですが、 マイムやダンスの映像を観ていて、それと並行して進展した植民地化も射程に入っていたことに気付かされました。

金沢21世紀美術館 展示室1-6
2025/05/24-2025/09/15 (月休;5/6,7/21,8/11,9/15開;5/7,7/22,8/12休), 10:00-18:00 (金土-20:00).

コレクション展は素材をテーマにしており、現代美術というよりガラス、陶磁、漆工などの現代工芸の文脈の作品も多く含まれていました。 それらも良かったのですが、結局、現代美術の文脈の、Carsten Nikolaiのアルミ板やブラウン管、 山崎つる子の着色したプリキの板や缶を使った、 近現代の工業的な質感によるミニマリスティックな作品の方に惹かれてしまいました。

ジャネット・カーディフ 『40声のモテット』
金沢21世紀美術館 展示室13
2025/05/24-2025/09/15 (月休;7/21,8/11,9/15開;7/22,8/12休), 10:00-18:00 (金土-20:00).

企画展、コレクション展とは別の国内巡回の無料展示です。 この美術館で2017年に開催された Janet Cardiff ↦ George Bures Miller の大規模個展 [鑑賞メモ] にはこの作品 (2001) は出ておらず、 2009年に銀座メゾンエルメス ル・フォーラム [Ginza Maison Hèrmes Le Forum] [鑑賞メモ] で観て以来の再見です。 8組の5声聖歌隊のために Thomas Tallis 作曲した motet Spem In Alium (c.1570) のパート毎の録音14分 (不明瞭な会話からなる環境音3分を含む) を40個のスピーカーを使って再生する作品という作品です。 商業施設内の展示スペースで体験した時は聖堂のような空間に展示した方が良いのではないかと思いましたが、 広い正方形のほぼホワイトボックスという空間に40個のスピーカーをほぼ円形に並べるというミニマリスティックな展示で体験すると、 その音だけで抽象的な空間に世界が立ち上がってくるよう。 異世界へ連れて行かれるような感が良かった。

1年余ぶりの金沢 [前回の鑑賞メモ] でしたが、 今回は最高気温35度前後の猛暑に美術館・博物館巡りをする気力を削がれました。 それでも、暑くなり過ぎる前の翌土曜午前に軽く散策ということで、 金沢21世紀美術館の無料展示、Janet Cardiff: The Forty Part Motet と恒久展示作品 James Turrell: Blue Planet Sky (2004) で 併せて30分ほど瞑想した後、本多公園の緑の小径を抜けて、谷口 吉生 建築の 鈴木大拙館 で再び瞑想。 暑さに散策は早々に切り上げ、森八本店へ。 森八茶寮でひと息ついたあと、金沢菓子木型美術館を見学しました。 しかし、前回に続いて今回も 日本工芸館は展示替え休館中。 今度こそ、開館しているタイミングで金沢へ行きたいものです。