ポルトガル出身で、競泳、そしてストリートダンスのバックグラウンドを持ち、 2010年代以降、コンテンポラリーダンスの文脈でダンサー・振付家として活動する Marco da Silva Ferreira の2022年作です。 去年もこの作品で来日していたものの首都圏で公演が無く見逃していました。 ポルトガルのコンテンポラリーダンスは観る機会はほとんど無かったので、観る良い機会かと足を運びました。
打楽器とエレクトロニクスの生演奏に合わせ、性別やルーツも様々な、一人は隻腕の10名のダンサーが踊ります。 衣装は黒のスポーツ用のレオタードやアンダーウェアをベースとしたもので、履いているのもスニーカー、鮮やかな色を差した布を腰に巻いたり羽織ったりして時に変化を加えます。 その動きは、ヨーロッパやアフリカのフォークダンスを都会的なストリートダンスでアップデートしたよう。 パーカッションの連打に合わせて手足を細かく動かすアフリカのダンスや、 アンゴラ発のアーバンダンスミュージック Kuduro、 ヨーロッパ、特にポルトガルの民族音楽・舞踊を参照していたようでした。
ポルトガルというと港町の歌謡ファド (Fado) が有名ですが、それではなく、むしろルーラルなもの。 自分の知る範囲では、1990年代にポルトガルのレーベル Farol がリリースしていたような、 例えば Gaiteiro de Lisboa のパーカッション・パートを抜き出したような音楽と感じました。 それ以外にも hardy gardy を思わせるジーと連続するような音がサンプリングで使われたり。 そんな音に合わせてヨーロッパのフォークダンスを思わせる対になったり並んだりしてのダンスしたり。 そんな様々な動きを繋ぎ合わせていたのは、ストリートダンス的なスポーティさも感じるフットワークに重点を置いた踊りでした。
特に中盤くらいまではフォークダンス的な人の配置での見せ方が巧みで、黒字に色を差した衣装も美しく、視覚的な音楽を観るようでした。 もちろん、ポルトガルやその旧植民地の音楽や踊りを参照することで国の成り立ちを間接的に浮かび上がらせていましたが、 終わり近くなり、床に敷いた蓄光の白いシートをスクリーンのように掛けて ポルトガルの独裁政権を終わらせたカーネーション革命 (1975年) の際のプロテストソングの歌詞の訳を投影しつつ歌うことで、その作品テーマがグッと全面に出ます。 直接的に過ぎるようにも感じましたが、粗めながら切れ味良いダンスには、そのくらいの勢いもアリかもしれません。
音楽のうち打楽器を担当した João Pais Filipe は、Burnt Friedman と共演したシングル (Automatic Music Vol.1–Mechanics Of Waving (Nonplace, 2022) など) を通して知ったミュージシャンだったこともあり、 エレクトロニクス (Luis Pestana) との組み合わせもあってダブワイズな展開を予想した所もありましたが、 エコー的な音弄りはあまり感じられず、むしろ、動きのシャープさを生かすような演奏でした。 後で自分のCDコレクション等を聴き返していて気づいたのですが、 舞台中盤で使われた “We will rock you” にも似たズンズンチャというリズムが、 Rui Júnior e o Ó Que Som Tem?: O mundo não quer acabar (Farol, 1998) の最後の曲としても収録されていたり、 エレクトロニクスを担当していた Luis Pestana のアルバム Rosa Pano (bandcamp, 2022) に Gaiteiro de Lisboa の Carlos Guerreiro の hardy gardy がクレジットされていたりしたので、 観ていた時に感じた音楽のポルトガル的な要素の印象は大きく外していなかったでしょうか。