毎回友人たちに登場してもらい、エッセイを書いてもらうコーナーです。 今年のお題は「影響をうけたモノ」。

第10回の執筆者はもんちさんです。

●●もんち自己紹介●●

 うみのそばに生息中の哺乳類・人間科のもんちです。
昼間のもんちは、なんちゃってOLに扮してレーコさんといっしょに働いてます。
レーコさんの世界を飲み会で垣間見れるのがけっこう楽しみなんだけど、そういえば最近いっしょに飲んでないなぁ。


第10回 「じかんのかんかく」

 東京の雑踏を歩いてるときに、ふっと思い出す光景がある。2年前の春がもうすぐ訪れそうな季節、友人と二人でマウントレーニアに行ったときの光景だ。マウントレーニアには、必ず毎年訪れることになっていた。と言っても、これは自分かってな心の儀式だったのだけれど、ちょうど1ヶ月後に日本への帰国が決まっていたから、その年は夏ではなくこの時期になってしまった。冬に雨の多いワシントンのことだから、山が見られないかもという予測が当たったことを悔しみながら、私たちは針葉樹がうっそうと茂る山道をゆっくりと車で上がって行った。駐車場があるビューポイントの建物近くまで来ると、そこは雨ではなく濃い霧に包まれていた。車を降りて、少しでも山のそばまで行こうとトレイルを歩き始めると、ついさっきまで少しは存在していた人達がもう見えなくなっていた。

 冬の終わりを告げるように雪解けが始まり、霧につつまれたマウントレーニアの麓は、私が経験したことのない種類の時間が流れていた。そして、あちこちから人間の存在なんてちっぽけなものなんだよとささやく声が聞こえてきた。観光客がわんさか訪れる夏には、けっして聞こえない声だ。そんなことを感じながら歩いていると、「シー」、友人が人差し指を口にあてて静かにしてという仕草をしている。足を止めて彼の見つめている先を見ると、鳥の親子が向こうから歩いてくるところだった。ライチョウのようなふっくらと丸い姿のお母さん鳥の後ろを、2羽の子供が自分の目の高さの草達に気を取られながら歩いて来る。子供達が草のなかで寄り道をしていると、お母さん鳥はトレイルの端で足を止め2羽が戻ってくるのを待ち、子供達がお母さんに気づくと歩き始める。そんなことを繰り返しながらこの鳥親子が私たちの前を通り過ぎて行った。彼らが通り過ぎて霧の中に消えて行くまで、まるで時間が止まっているような、でもなんだか懐かしい感覚に陥っていた。別世界というか、それは人間が自然といっしょに暮らしていたころの時間なのだと身体の奥深くの部分で、感じていた。しばらくして、つないだ手から伝わる彼の体温に自分がそこにいることを取り戻していた。


 あのときの光景と感覚が、東京へ通う日々のなかでふっと自分の身体のなかにあらわれる。日本に戻ってから約1ヶ月後には東京へ通勤する毎日が始まり、都会のすさまじいエネルギーとハイスピードな時間の流れに圧倒されながらも、どうにか自分のペースでついていってる。そんな東京時間に身を置いていると、ときどき、あのときの鳥親子が自分の目の前を通る光景と感覚が戻ってくるのだ。たとえ木々がささやく声なんて決して聞こえてこない東京にいても、同じ時間に、同じ瞬間に、あの滴が落ちる音さえも響きわたりそうな山の麓では鳥の親子が霧の中を散歩しているのだと思うと、心から安心できるのだ。そして、まだ大丈夫、私はここにいるよ、と身体の奥底で言っている。きっと自分の中にもいくつかの時間が流れ、どれもが同時に違う質を発していることを、押し入れの奥にしまいこまれてたアルバムを取り出すかのように思い出す瞬間なのだろう。


(第11回の執筆者はヨシミさんです。お楽しみに〜)


★前回執筆者へのメッセージ★

クラシックピアノしか弾けない私にとって、ブルースは、けーこさんが言うように、絶対職人技あるいは天性の音感の持ち主のなせる技と思っていたのに、その思いこみが「な〜んだ」って一瞬にして変わってしまった。そうか、こんな少ないコードで弾いてたのかぁ・・・ちょっと複雑な気分。でも、まだブルースの入り口に立てただけだからその奥は真っ暗で見えないけど、身近に感じられただけでいいのかな。
今度、けーこさんおススメCDと映画を見てみよう。きっともっとブルースが楽しくなるはず。


★マウントレーニアの関連サイト★

●National Park Service(アメリカの国立公園のページ)
http://www.nps.gov/mora/
●Mount Rainier National Park(マウントレーニア国立公園公式ページ)
http://www.mount.rainier.national-park.com/
●マウントレーニアの宿泊情報
http://www.guestservices.com/rainier/
●Willliam Joseph Gallery(フォトギャラリー)
http://www.williamjosephgallery.com/
●Worldisround.com(フォトギャラリー)
http://www.worldisround.com/articles/12962/photo18.html
●Declan McCullagh's Photographs(フォトギャラリー)
http://www.mccullagh.org/theme/mount-rainier-sept02.html
http://www.mccullagh.org/theme/mount-rainier-glacier-sept02.html
●Pictures of Mount Rainier National Park(フォトギャラリー)
http://www.cs.washington.edu/homes/wchan/photo/rainier.html
●TERRA GALLERIA(フォトギャラリー)
http://www.terragalleria.com/parks/np.mount-rainier.html
●PBASE.com(フォトギャラリー)
http://www.pbase.com/jlam/mount_rainier
●マウントレーニアの本
http://www.gonorthwest.com/store/books/wa/rainier.htm

★シアトル市内からの眺め。こういう構図ってどこの国でも似てるねー。晴れた日の東京から見える富士山のようです。
(レーコより) もんちさん、執筆本当にありがとうございました。私、最近テレビなんかで、海や陸のいろんな動物のお母さんが子供達に思いやりを見せる姿を見ては涙ぽろり、なんてしょっちゅうで、今回のエッセイも同様「うっ」ってなっちゃいました。人間の親子の凄惨な事件ばかりが報道されたりしてるからなんでしょうか。それはそれで、何とも人間くさく、興味深いのですが・・・。やはりこういう話は、心が洗われるような気がいたします。
もんちさんは、初めてお話させていただいた時に、「奥の奥の感覚」を書いていただいた友人トヨダさんに通じるものを感じました。その二人が「山」をキーワードにエッセイを書いてくれたのは、不思議なような当然のような・・・。このページに登場していただいた私の友人全員の共通点は、「私が知らない何か」を非常にうらやましい方法で自分の中に「インプット」してるっていうところなんですが、もんちさんとトヨダさんって、「インプット」の方法が何となく似てるんじゃないかな〜。今回は偶然「山」がテーマだったけど、多分、二人とも、仕事したり、散歩したり、友達とお酒飲んでわいわい盛り上がってる時でも、感じてるものが似てるんじゃないかって。今は会ったことがない二人ですが、いずれ私が引き合わせてみたいですねー。今回、「アメリカ」のとある場所が登場するのは「こちらヒューストン」のテラケンさん以来です。アメリカって大きすぎて「こうだ!」ってなかなか判断できないから、一番目立つ日々のニュースだけから評価してしまいがちだけど、ヒューストンのNASAや、シアトルのマウントレーニアの話をこうして読むと、強い魅力を感じます。いつかアメリカもあちこち旅してみたい。もんちさん、また今度会社帰りのマクドナルドで長話いたしましょう!

→「読本 十人十色」バックナンバー
1「筒井康隆礼賛」by よねお
2「デス・スターの溝」by KITT
3「恋い焦がれる」by マサコ
4「おれがすき。」by こばやし
5「奥の奥の感覚」by トヨダ
6「こちらヒューストン」by テラケン
7「ドラッグのすすめ」by イロミ
8「Hello Kitty」by イザベル
9「BLUES SESSION の入り口」by けーこ
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