ここで、メーカー製パソコンが良いのか、組み立てパソコンが良いのか、はたまたBTOが良いのか、パソコン購入を考える者にとっては、悩みどころである。価格だけをみると、激安と呼ばれるPCはB.T.O.またはそれに準ずる組み立てパソコンで、3万円くらいからある。ボリュームゾーンは7〜10万円程度であろうか。その一方で、メーカー製パソコンには立派な液晶モニタやらビデオキャプチャやら各種ソフトが付いている上にデザインも各社趣向を凝らしている。
価格の絶対値を考えれば激安PCに勝るものは無いようにも思えるが,CPUのグレードやHDDやメモリの容量,そしてソフトや液晶の値段を考えると、メーカー製パソコンもそれ程コストパフォーマンスが悪いわけでもないように思えてしまうものだ。
そこで、2004年現在販売されている国産メーカー製パソコン(市価23万円)を2つほどチョイスし、付属しているソフトやモニタなどを「バラ売り」で入手すると如何程の値段になるかを調べてみたのが図1である。ソフトにはOSを含み,「明らかにおカネを払わないと入手できないもの」をカウントしてある。具体的にはオフィスアプリや辞書、地図の類が算入されており、ネット接続何某やDVDライティング何某等のオマケ類は算入していない。また、所謂メーカー製PCには標準的に付属している17インチ級の液晶モニタおよびビデオキャプチャも、後から買うといくら位なものか調べてみた。なお、価格は筆者が独自に調査した市場価格を用いている。
こうしてみると、消費者から見たパソコン本体価格は,市価23万円ほどの国産メーカー製PCで大体8〜10万円ほどであることが分かる。見積もりサイトなどで確認すると分かるが、BTOで同程度の性能の本体のみを購入した場合と大差ないのである。
つまり、国産メーカー製PCの価格が高く見えるのは、付属アプリと液晶、ビデオキャプチャの類がセットになっているからだと考えることが出来る。更に、図1に示した23万円という価格は比較的高価格の部類ではないだろうか。少し前の型式なら更に5〜6万円引きといったところだろう。つまり本体価格でみると激安PCといい勝負なのかもしれず、国産パソコンも結構コストパフォーマンスは頑張っているようだ。(注:勿論、ソフトなどがメーカーに卸される価格は筆者の試算より安かろう。しかし、消費者はその値段でソフトのみを購入することが出来ない点に留意すべきである。)
したがって、初めてパソコンを購入するといった場合や、最新のハード・ソフト一式をそろえたい向きには国産パソコンを買うと言う選択も悪くはないようである。
さてそうすると,所謂BTOパソコンや組み立てパソコンを選択することの意味はないのだろうか?筆者はPC/AT互換機の時代が訪れてからというものは、常に組立てPCを選択してきた。
その主たる意図は,周辺機器類を長期間に渡って使用するために,本体に汎用性と物理的スペースが必要と考えたところにある。人によってはより速いPCが欲しいかもしれないし、あるいはより静かなPCが欲しいかも知れず、それらの個々の要求を満たそうとすると、コンポーネント毎に選択しながらパソコンを組み上げることが必要になるのだろう。
もう一つの理由は、過去の遺産の有効活用である。その最たる例がモニタとソフトウェアだ。どうしてもメーカー製パソコンではソフトやモニタが抱き合わせで買わされるケースが多い。特に“パソコン買い替え組”の人間にとって、既に所有しているものを捨てて同じ機能のものを再び購入しなければならない理由はない、というわけだ。ソフト抜きのBTOパソコンが高いシェアを獲得できた理由も、その辺りにあるかもしれない。
なお、販売されているパソコンの本体価格には結構幅があって迷いやすいところであるらしく、筆者も相談を受けることがある。こればかりはPCの使用目的にも因るのだが、趣味の道具の場合往々にして初心者であるほど高価な機械が必要であり、上級者ほど低額機でも楽しめることがある。パソコンにおいてもこの傾向はあるようなので、どの本体価格レンジのものを購入するかは、目的とスキルと財布と相談ということになるだろう。(29. Jun, 2004)
さて、それより更にプリミティブなところだが,パソコンサポートに対するメーカーの姿勢というのも重要なことだ。パソコンサポートといえば、電話によるサポートセンタを思い浮かべたくなるところだが、出来ればそんなところにはお世話にはなりたくない。概してサポートセンタには繋がりにくい上に,「それは出来ません」という回答を聞くためなどに時間を浪費したくはないものである。
これは考え方や自分の持つスキルによって考え方は変わる所だが、できることなら自助努力で出来る範囲できちんと動作させられる製品が欲しい、と筆者は考えてしまう。そのためには、パソコンを動作させるために必要な情報(つまりマニュアル)やドライバがベンダからきちんと提供されていることが必要ではないかと思う。つまり、“初期出荷状態に戻す”以外の方法でPCを動作させるための最低限の情報なりソフトウェアなりが提供されていることを筆者は重視する。
こうしたサポートに対するメーカーの姿勢は、メーカー自身がWebサイトで公開しているので参考にすると良いだろう。筆者の場合、具体的には 「情報の量」と「どのくらい過去の情報」を公開しているかの二点をチェックする。試みに2004年夏現在の、数社のPCベンダのサイトを覗いてみることにした。
まず、デザインやコンセプトなどで消費者の心を掴むことで定評のあるSo社のサイトを覗いてみた。ご多分に漏れずサポートサイトがあり、そこではマニュアルとドライバ群のダウンロードが可能なことになっている。中身をよく見てみると、マニュアルは2003年以降の製品についてのみダウンロード可能であり、ドライバも基本的にアップデート版がある場合のみ提供されていた。
そして、そのSo社の人気Vシリーズの初代のサポートがどの程度なものかも確認してみたが、結果は少々寂しいものだった。やはりドライバはアップデートされた僅かなものが公開されているだけであり、Q&Aコーナーの「Windows95を最初からインストールできますか」という項目をクリックすると、「できません」という趣旨の文章が簡潔に明記してあるのみであった。このようなメーカーの機種を選定するには、それなりの勇気もしくは信仰が必要である。
次いで、かつてDOS/V上陸の際にパソコンを大量に販売してシェアを得たF社のサイトを覗いてみた。このメーカーの製品の品質については、HDD突然死騒ぎなどもあったりして何かと疑問を挟む余地が多く、かつてはドライバなどのディスクロージャも不十分な点があったと記憶しているが、2004年夏現在までに大分改心していたようである。
まず、1994年頃同社がバーゲンを行ったDOS/Vマシンのドライバ一式が手に入るようになっている。2000年頃以降の製品については、マニュアルのダウンロードも可能になっていた。同社のこのような姿勢が堅持されるならば、将来購入したマシンに何かのトラブルがあったときにも周囲の知恵を拝借しながら解決できる可能性が高いと思う。
更にかつて国内パソコン市場で圧倒的シェアを誇ったN社を覗いてみた。サポートページにはかなり旧機種からの情報が蓄積されていたが,ドライバはアップデートモジュールのみの場合があったりマニュアルも一部機種のものであったりと、少しムラがあるようだ。
元々あまりPCの内部情報に関するディスクロージャに積極的ではなかった感のある同社であるが、そうした過去の体質は2004年夏現在においても多少受け継がれているようだ。これまでにユーザーに大迷惑をかけることは無かった同社だが、これが堅持できるかどうかは不透明である。
さて、これまで大手国内のPCベンダの様子について書いてみたが、昨今話題に上がっている激安通販の外資系PCベンダ D社の様子も眺めてみたので、書いておく。このベンダは最近シェアが急増して有名になっているが、その歴史は古い。
そのサイトを眺めてみると、なんと8088時代の互換PCのジャンパスイッチ設定やSPECなどまで掲載されていた。最近のPCについても、めぼしいドライバは一通り揃うようになっているようだ。
兎角“直販のみの販売方法とコスト削減”が成功要因のように経済紙では書かれることが多いように思うが、過去の情報に至るまで蓄積・公開しているという姿勢もまた支持を集めている要因の一つではないかと感じさせられた次第である。(もちろん、ネットによる徹底したディスクロージャがサポートコストを下げているとも考えられるが。)
パソコン購入にあたっては、始めに書いたように製品そのものの品質は重要な要素であるが、そのパソコンを果たして何時までどの程度サポートするかというベンダの姿勢を知っておくことも大切である。時間がたつにつれて初期出荷状態とは違う状態になるのは、汎用性の高いパソコンにおいては当然のことだということを忘れてはいけない。
このことは、特にメーカー独自の基板が用いられていて、汎用ドライバの入手が困難になることの多いコンパクトマシンやモバイルPCの選定においてはなおのこと重視したい。
更に加えて言えば、マザーボードや各種拡張ボード類といったパーツに至っても、過去にそのメーカーが出した製品のドライバが今でも提供されているかというのは選定基準の一つとしておきたいところだ。
そして、高度情報化時代においてこのような情報の開示は当然だと思っていたが、メーカーごとの温度差は皆無というわけではないようである。(1.Aug, 2004)
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