[誤記あり:下記の記事には誤りが含まれています。読者の方々には慎んでお詫びし、訂正いたします。]
読者の方からご指摘いただいたのだが、下記の記事中「PC110が提案していた機能はIP電話」という記載は誤りだったようだ。ご指摘によれば、PC110が提供していた機能は,“本体の後ろのモデム端子に電話ケーブルを接続し、本体のダイヤラーで電話をかけるという仕組み”とのことである。
当時PC110のマニュアルを見た筆者が時期尚早に感じて、理解の外にあったこの電話機能について、最近のIP電話の興隆を見た筆者が勘違いしてしまったようである。(16. Aug, 2004)
その時期尚早の機能とは、インターネット電話であった。現在ではブロードバンドが浸透し IP電話というものも市民権を得ているが、当時はそういうものもなかった。インターネットが流行した 1995年頃から間もなく、インターネット電話を実現するためのルーター装置や交換機の類は展示会などで注目を集め、マスコミなどにも紹介されたことがある。
しかしながら、それを実際に使える装置と言うものは殆どお目にかかることがなかったように思う。PC110は、当時IP電話というものを具現化して市場に流通した数少ない機器の一つであったと思う。
さて、その電話の機能はどのようにして提供されたかを見てみよう。少し分かりにくいかもしれないが、右上の画像でキーボード手前についている丸型のものは、スピーカーとマイクである。
そして液晶モニタを折りたたむと、そのまま受話器になるというものであった。本家のサイトには何の説明もないが、左の図でビジネスマンが手に持っているのは PC110本体である。
更に筆者の記憶によれば、マニュアルにはこのビジネスマンが公衆電話の中でモジュラーを繋ぎ、PC110を介して通話している様子が描かれていた。説明文には「電話としても使えます」という程度のことが書いてあったように記憶している。(残念ながら現在のIBMのサイトからマニュアルはダウンロードできず、原文の詳細は失念してしまった。)
当時筆者には、これの意図するところが全く理解できなかった。何故公衆電話の受話器で通話しないのかが分からなかったのだ。当時はインターネットに接続するにしても,ホットスポットはおろかADSLもなく、モデムでダイヤルアップするのが主流であったのだ。そしてインターネットに接続するためには、通話料に加えて従量課金の接続料金を支払う必要があった。
このため、わざわざ高いお金を払って重たい受話器で会話する意味などがあるのか、と内心笑っていたのである。(もちろん、距離によってはこちらの方が安いと言う場面はあったのかもしれないのだが。)
IP網を通すことで電話料金を下げるというIP電話のストラテジが開花するのは、ご存知のとおりブロードバンド回線が整備されて定額料金で通信が可能になったITバブル以降からのことである。その時には既にPC110は半ば骨董化してしまっていたわけだ。
そして現在のIP電話は、そのストラテジの原型こそ同じであっても、PC110がかつて示した姿(左図)とは大きく異なるものになっていたのである。ウルトラマンPCが示したIP電話は、十分に将来を見据えたものであったが、当時の社会のインフラ状況からいって時期尚早であったわけだ。
こうした現象は、おそらく今後も見ることが出来るだろうし、今ある製品にも見られることかもしれない。幸いにしてこの電話機能は PC110 のセールスポイントではなかった。
一方で、時期尚早のものをセールスポイントにしている製品を見かけたら、眉に唾をつけて見る必要があるかもしれない。「将来、必ずこういう時代が来ます」とか「時代を先取り」というフレーズの裏には、「将来出る使いやすい新製品(やインフラ)のための寄付を下さい」というニュアンスが込められている場合もあるかもしれない。(14. Aug, 2004)