8月24日の「火山噴火予知連絡会」見解について
 〜個人的な注釈

                   by A.Tomiya (2000/09/01, 20:00改訂)
8月31日に新たな予知連見解が出ました. 8月24日見解に比べるとバランスの取れた内容になっており,この点は評価したいと思います.

また,8月31日見解を受けて,ついに全島避難(防災関係者を除く)が決断されました(9/1). 三宅島噴火の今後の展開を読むのは困難ですが,少しでも被害が小さくなるように願うばかりです.


前書き

8月24日に出された「火山噴火予知連絡会」(以後,予知連)の見解は, 誤解を招きやすく分かりにくい文章でした. おそらくこの見解を読んでその意味を100%引き出せる人はほとんどいないでしょう.私はこれは危険なことだと思いました.

8月24日の予知連にはこれまでになく多くの人が注目していました.8月18日にこれまで最大の噴火が起こり 全島民の島外避難が議論されるなど 事態が緊迫の度合いを高めており,ここで出させる見解は極めて重大な意味を持っていたからです.
(見解の内容によって,全島避難するか否かといった行政側の動きが決まってしまう.)
そこで,以下に見解の全文を引用するとともに,分かる範囲で注釈(赤字の部分)をつけました. なお,この注釈は個人的見解として書きました. そこで,敢えてwww.gsj.go.jpには置かずに,私の私的なページに置くことにしました. 私の心配が杞憂に終わることを切に願っております.


平成12年8月24日 22:05

気 象 庁

三宅島の火山活動について



 三宅島の火山活動に関する火山噴火予知連絡会の検討結果は次のとおりです。

 三宅島では、山頂で活発な噴火活動が断続的に発生しています。

 8月18日の噴火に伴う噴出物について検討を行いましたが、噴出物中の多孔質岩塊が高温で新鮮なマグマから生じたものとは断定できないとの結論が得られました。

このような中途半端な書き方をするくらいならこの文↑は削除すべきだったでしょう.

8月18日の噴火では明らかに“マグマ由来”の噴出物(本質物質)が出ていると地調では考えています. ただし,このマグマは8月18日に新たに上昇したのではなく,7月8日の最初の山頂噴火のときに上昇してきたマグマと思われます.従って,“マグマから生じた”ことは確かだが,この1ヶ月余りの間に冷却と結晶化が進んでいるという意味で“新鮮ではない”ということなのです.
一方で,そもそも本質物質ではないのではないか,と疑問を呈する委員もいました.つまり,こちらは“マグマから生じたものではない”という意見です. 新鮮かどうかはともかく,マグマから生じたかどうかについても結局最後まで折り合いがつきませんでした. それで,どちらとも取れるようなあいまいな文として作ったのがこの表現(高温で新鮮なマグマから生じたものとは断定できない)だったのです.分かりにくいのも当たり前です.
(“断定できない”のが“マグマ”なのか“高温で新鮮な”なのかどちらとも読める.)
いずれにせよ,この1文はマグマの関与がないとは言っていません.マスコミを含め多くの人はこの点を誤解しています.確実に言えるのは,8月18日に新鮮な(新たな)マグマが(地下深部から)出てはいない,ということに過ぎません.

また,マグマの関与とは無関係に破局的な噴火は起こり得ます(三宅島全島に大きな被害を与えるような噴火〜これについては“S2”のところで述べます).つまり,仮にマグマが関与していなかったとしても,厳重な警戒を怠るべきではないのです.
なお,マグマ関与の有無が議論になる理由ですが,もしマグマ物質が見つかれば,マグマの存在している深さ,マグマの粘性,爆発の起こる場所,などといった防災上重要な情報がマグマ物質の分析によって得ることができるからです.
残念なことですが,8/24現在三宅島のマグマはどこで何をしているのか全く分かっていません.三宅島の噴火の推移がまったく予想できないのはそのためです.(これに対し,有珠山噴火ではマグマがどこにいるのかが常に把握されていたため,推移予測が的確に行なわれました.)

 7月8日から観測されてきた、ゆっくりとした山下がりの後急速に反転する地殻変動と、その反転の数時間前から山頂部で地震が多発するという現象は、8月18日以来発生していません。

 断続している山体の収縮の原因は、マグマが引き続き西方へ流出しているためと考えられます。

 この間の噴火は、マグマや高温岩体と地下水との相互作用により発生していると考えられますが、このような噴火はマグマの顕著な移動は伴わないことから、一般的には予測は難しいと考えられます。しかし、急速に反転する傾斜変動の推移、大規模な噴火前の火山性地震や微動、山頂から放出される水蒸気や火山ガス等の監視解析で予測できる場合もあると考えられることから、 観測体制の強化を図ることが必要です。

「予測は難しい」と言っています.これはハッキリ言えば,責任を持って予測できない,と言っています.また,「予測できる場合もあると考えられる」とは,“予測できない場合もある”の裏返しです.
上でも述べましたが,現在地下で何が起こっているのかほとんど分かっていないのです.科学的に言えば,予測に耐えるモデルが存在しないのです.予知連は万能ではありません.予知連の言うことさえ聞いていれば良い,というわけにはいかないのです.
もちろん,火山関係者(私も含む)としてはやれることは最大限やりますし,これまでも十分やってきたと思います.しかし,現在の力では限界もあるということは知っておいていただきたいです.

 当面は、18日と同程度かこれをやや上回る程度の山頂噴火が繰り返される可能性があります。

 このような噴火が発生した場合、山麓へも噴石が落下する可能性があります。島内では噴石および火山灰に引き続き注意が必要です。

ずいぶん控えめな書き方です.8月18日噴火を上回る噴火があれば,確実に山麓へも数cm大の噴石(火山礫/火山弾)が降ります.当たれば死にます.
また,多くの火山学者が懸念していることとして,“S2”の再来の可能性があります. この可能性はおそらく低いでしょうが,万一それが起きた場合,三宅島は壊滅的被害を受けるかもしれません.“S2”とは何か,についてはまた稿を改めることにします.
(どうしても今知りたい方は,例えばhttp://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/news/2000/miyake/remarks/scenario/the.htmlを御覧下さい.キーワードは「伊豆大島6世紀」です.あるいは,http://www.jah.ne.jp/~chili/camp/nagaya.cgi?room=005の掲示板の「発言3348」を御覧下さい.)

ちなみに,8/24頃の段階では,東京都はいざとなったら5〜6時間で全島民を避難させられる(=だから今は避難させない)と言っていましたが,これは認識が甘いです.三宅島で懸念されている爆発的あるいは破局的噴火はとても展開が早いです.もし山体崩壊や火砕流が起これば数分以内に山麓に被害が及ぶでしょう.それでなくても,殺人的な噴石(火山礫/火山弾)が降る中で避難が円滑に行なわれるとは思えません.溶岩流がゆっくりと流れるような噴火(例:伊豆大島1986)ならいざしらず,今の三宅島の状態で“5〜6時間”とはあまりに悠長なことだと思います.
可能ならば島外に避難した方が良い,と言いたい一方で,島外避難が必要なほどの大きな噴火が起こるかどうかは分からない(確率何%かどうかも検討がつかない),という苦悩をこの予知連見解から読み取っていただきたいです.
(なお,9月1日についに全島島外避難が決断されたのは御存知の通りです.)

 現段階では、山麓での噴火の可能性はありません。また、雨による泥流にも注意が必要です。
山麓での噴火に関して「現段階では」の文言が入りました. この言葉は前回8月21日の見解には無かったものです.
今後の推移予測に自信が無くなったことの表れです.


最後になりましたが,予知連の見解「三宅島の火山活動について」は,毎回大変な労力を使って書かれています.用語の使い方から"てにをは"に至るまで実に細かいところまで議論します.叩き台が提出されてから2次案・3次案・4次案と改訂を繰り返し,完成するまで2時間かかるなどということも珍しくありません.
その意味で,極めて配慮に配慮を重ねた文書です.従って,読む側も慎重に,行間も含めてしっかり読み込まなければなりません.
 →三宅島噴火に関する2つの見解(個人的な注釈)
hinan-sha

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Created:Aug,25,2000