短歌会 2月4日〜 1997年
西★ 引力の空より来る島ありていざなぐものら胡桃愛しむ
中★ 剃刀の 湯気にけむれる たゆたやに はじめてなりし 少年の朝
西★ 少年が腹に流れる一筋の青き川持つ剃刀の冬
中★氷月 菓子とならぶる 山茶花を 有田の皿に うつしけりぬる
西★氷菓子嚥(の)みし汝ェ唇(くち)せせらげる山茶花ひと葉浮かべて温し
西★節分会鬼の来ぬ昼ふたり居に聖所巡りつ日だまりが過ぐ
中★節分に ブンブンとびゆく ゆくまめに まめ数の日々 日だまりにおつ
西★寒空に背骨露な用水と並び歩めば夏の背愛をし
中★用水の 竿をながせる かの日には 白く光れり 真鮒の背骨
中★狂い死ぬ 叫ぶ教師の 夕靄に カクテルなりし 英和辞典 (英語の辞書)
西★言の葉は浮きにしゆえにプロスペロ持ちにし辞書をカクテル名に
中★うぐいすの 梅にさえずる 日だまりに いまだ癒えずや 刀傷
西★味わひて頬をなぞるは梅の香か少しく狂ひ刀を舐めむ
中★風にのり さざめく声は 犬なりき 笑みうかべり 外套の袖
西★襟高く世界覗けば外套よいつ見えそめし犬のまなざし
西★漆黒に桜吹雪ける夜を恋ひ風に吹かるるけふを愛しむ
中★立春の 鴨も飛び立つ 陽気なり 風にふかれて 芽を出す桜
中★夕闇の 村に遊びて 池のはに ゆくえもしらず 猫の死骸
西★猫千匹ぬくぬく暮らす邑ありて短毛敷き詰め午睡の初春
中★太陽を 真下にしたがえ 24時 年をとりつつ(日をまたぎつ)緑茶飲む
西★ 球根の鉢に水啼く二十四時緑茶啜りて世界にかよへり
中★白髪見ゆ 余寒に震えし 今春は 去りゆく春と また異なるか
西★濡れ髪を愛しく包む白布に吸わるる水よ余寒に願ふ
中★春一番 吹けよここより 彼のもと いつ日にかや 夢よりさめん
(*煙草入らず)
中★白昼夢 醒めればここは 春一番 黄泉の国へと くゆらす煙草
西★春一番煙草の熱き灰を目に入れて泣きぬるやがてさめざめ
中★雪国の 遠き国にて たたずめり 地図にのこるや むかし保線区
西★ 寒桜血の色に映ゆ保線区の暮れかかる地図親しくなぞる
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