生きるための情熱としての一人旅

「ホーカーズ! ホーカーズ! ホーカーズ!」

Part2

[第一日]

吉兆はハンサムボーイ

 旅に吉兆というものがあるとしたら、彼はたぶんそれだったと思います。誰ってそれはユナイテッド航空の男性キャビンクルー。その中の一人がもう、まあ、むちゃくちゃハンサムだったんですよ。黒髪で、顔はマルセイユに行ったサッカーの中田浩二に似ていて彼より男前で、身長が180を超えていて、体躯も上から下まで見事にスラリ。なんであなたがこんなところに、芸能界に行った方が成功できるんじゃないの? と思うぐらい、ハンサムだったのです。アジア系の顔だちなものだから最初は日本語で話しかけてしまったのですが(くどいたわけではない)、見事に通じませんでした。チャイニーズなのかなあ。日本のホストクラブでナンバーワンといわれる男の子などを見ても、なんとも思いませんが、彼がホストだったら、私、通っちゃうかも(笑)。「もう何もいわなくていいから、そこでただ微笑んでいてちょうだい」といいたくなるような存在感でした。彼が持って歩いているのが出入国カードとわかっていて、「それ、なに」と聞いてみたりして。キャビンクルーをくどきたがる世の日本男性の気持ちがちょっとわかったような。記念に写真を取りたかったけど、取ったら公開したくなると思って、そこは淑女の良識で遠慮しておきました。いやー、いい目の保養をした。
 
物足りないガイドブック 
 
 何度も行っている国ではあるのですが、何か参考になるかと思って「たらふくまんぷくシンガポール」(坂口あや著)という本を機内で読みました。20代後半?ぐらいの女の子二人組の旅行記です。2004年刊行ながら大きな書店でも取り寄せのところが多く、ようやく入手した感があったのですが、その内容には正直がっかり。食をテーマにしているくせに、彼女たちには食べられないものが多すぎるのです。ロジャッ(詳しくは後述)も食べられない、カラン(詳しくは後述)も食べられない、結局食べているのはカヤトースト(詳しくは後述、するかどうかわかりません)ばっかり。それでよくこんな本出すなあと思ってあきれました。扱う書店が少ないのはクオリティが低いせいだったのかも。覚悟が足らん、森枝卓士のツメの垢でもせんじて飲みやれって感じ。でもまあ、この本によって「マカンスートラ」というローカルのザガットサーベイ様レストランガイドが出ていることがわかり、それを現地で手に入れたおかげで今回の旅が充実したので、そのことには感謝していますがね。
 
パートタイムラバーでも見つければ? 

 タクシーの運転手にはおしゃべりな人と寡黙な人がいますが、どういうわけか私は前者に当たるパターンが多いようです。チャンギ空港からホテルに向かうときに乗ったおっちゃん中国人ドライバーもそうでした。
 
運「日本人?」
私「なんでわかるの?」
運「顔つきがね。なんとなくそんな感じ」
私「残念。シンガポール人のふりをしたかったのに」
運「(笑)。あんたの英語は悪くないね。日本人の英語はたいがいひどいけど。どっか海外で勉強したの?」
私「日本で勉強したよ」
運「ふーん。こっちに友達かなんかいるの?」
私「いることはいるけど、今回は一人で遊ぶの」
運「なんで? ダンナとかは?」
私「なんでといわれても。私は独身なの」
運「なんで結婚しないの?」
私「なんでといわれても」
運「パートタイムラバーでも見つければ?」
私「そんなことしたくない」
運「バリとかに行く日本人でそんな人がいるって聞いたよ。シンガポール人も恋愛についてはオープンマインドだから大丈夫だよ」
私「私が大丈夫じゃないよ」
運「何日いるの?」
私「6日間」
運「わしが時間あったらつきあってあげるんだけどねえ。タクシーは長時間働かないと食ってけないからねえ。ほんとにこの仕事は働かないと。で、なに、ディスコとか行くの?」
私「ディスコ(笑)。あなたは行くの?」
運「わし? わしはもう年だもの、行かないよ(笑)。もう44だよ」
私「私と変わんないじゃん。私は42だよ」
運「へえ、若く見えるねえ。なんで結婚しないの?」
私「なんでといわれても」
運「で、シンガポールでなにして遊ぶの?」
私「私はここへ食べにきたの」
運「食べに?!」
私「キャロットケーキとか、ロジャッとか、チキンライスとか」
運「ははあ、ブントンキーとかチャターボックスとか行こうと思ってるんでしょ。おいしいっていうけどね、わしに言わせれば高すぎるよ。ホーカーセンターのチキンライスで十分だよ。食い物に20ドルも30ドルも出す人間の気がしれないね」
私「なるほどお」

というところでホテルに着きました。年がほとんど変わらないのに、すごくおっちゃんだったなあ。

こうしてみると、シンガポール人と楽しく交流したようですが、実はちゃんとしゃべったのは、このときと帰りの空港へのタクシーの中だけ。キモノを着ていかなかったので私は現地に完璧に溶けこみ、好奇心などで話しかけられることはありませんでした。なぜキモノを着ていかなかったのかって? 一回やったことがあるんですが、赤道直下でキモノを着ると5分でぼとぼとになるのです…。

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