生きるための情熱としての一人旅

「ホーカーズ! ホーカーズ! ホーカーズ!」

Part3

[第二日のその1]

私の好きなブギスとは

 シンガポールに着いたのは昨日の夜中なので、今日が事実上の旅の初日です。私ははりきって6時に起きました。お休みだというのに勤勉でしょ? 食い意地が張っていますからね。寝過ごして朝食を食べ損ねるなんてことはできません。そそくさと支度をして街中へ出かけます。私が今回泊まったのはブギスのインターコンチネンタル・シンガポール。私はブギスのあたりの雰囲気が好きなんです。ブギスはおもしろい街で、東京でいえば渋谷と原宿を足して2で割ったところに上野をくっつけたような感じ。インターコンチに隣接してブギスジャンクションというショッピングセンターと西友という名前のデパートメントストアとロードショー映画館があります。ここにはMRT(シンガポールの地下鉄)のブギス駅もあって何かと便利です。でも、私が好きなのはブギスのこうした新しい部分ではなくて、通りをひとつへだてたところにある昔ながらのローカルな、上野なところ。わけのわかんないTシャツやかばんやアクセサリーを売っているブギスストリートや、ドリアンを道ばたに山積みにして売っている果物屋さんや、その上のアパートに住んでる地元住民向けに営業している古いホーカーセンター アルバート・センター・フードコートがあるブギスにひたるべく、インターコンチに泊まりながらホテルでは一回も食事をせず、お茶も飲まず、朝食といえばアルバート・センターへ、夜のお散歩といえばブギスストリートへという毎日を過ごしたのでした。いがんでる?

アルバート・センターはいずこに
 
 ところが、ところが。5年のブランクは想像以上に大きく、ブギスの構造をすっかり忘れてしまっていた初日、いとしのアルバート・センターを見つけられず、ロッカー・センターへ流れついてしまいました。ここも上がアパートになったホーカーセンターなのですが、アルバート・センターに比べるととても規模が小さくてほんの数店程度。朝はまだ営業を開始していない店も多く、ぐつぐつ煮立っているのに売ってくれないバクテー(詳細は後述)をうらめしげに横目で見ながら、唯一の汁物だったフィッシュ・ダンプリング・ヌードルを注文しました。
 


 栄えあるシンガ到着第一発目のローカルフード。起きぬけのためかピントもぼけています、すみません(笑)。漢字で書くと魚丸面。シンガポール人も練り製品が好きみたいで、汁物にはよくこういう団子やうすく切った蒲鉾状のものがよくトッピングでのってきます。麺は日本にもあるラーメン状の小麦麺。私はお米で作った麺の方がよかったんだけどなあ。スープはあっさり味ながら、生のチリが浮いているおかげで私好みのぴり辛に。日本円にして200円ぐらいのものなんですけど、麺のゆで方などお湯をまんべんなくいきわたらせるような独自のこだわりがあって見ていて楽しいです。私の前のおじさんには薄切りのお肉と魚団子ときくらげのようなものをのせた凝った汁麺が渡されていたんですが、あれをどうやって注文していいかわかんないわ。
 


 魚丸面だけでは物足りなかったので、バイキング形式で点心を並べていた店に行き、写真の2品とコーヒーを注文しました。シンガポールのホーカーセンターでコーヒーを注文すると、デフォルトはミルクと砂糖入りになります。しかもミルクはコンデンスミルクです。厚いガラスのコップになみなみと注がれて、金属のスプーンが添えられます。底に沈んだコンデンスミルクをそのスプーンでくるくるとかきまぜるのですが(写真はかきまぜる前)、ホーカーセンターのあちこちでその光景が展開されるため、ガラスに金属があたる音がキンキン響いて、それがホーカーセンターならではの情緒をかもし出しています。なかには相当なスピードでいつまでもかきまぜている神経質な人もいます(笑)。最初はその甘さに「どうしましょ」と思うんですが、だんだん慣れてきて、ついにはこの甘さがないと物足りなくなります。今、私は日本でその状態にあって、コンデンスミルクを買いました。
 黒糖食パンに見える右側の点心は食べてみると大根餅でした。焼いてから時間が経っているので、口の中がパサパサに。これはちょっと失敗だったかな。その隣は、具が切干大根や干し蝦などを甘辛く炒めたもので、皮に腸粉を使った巨大な餃子。これがおいしかったんですよ。日本の切干大根より千切りチックでやわらかく、ほんのりと甘いのがいけました。またどこかで出会ったら食べようと思ったんですが、とうとう再会できなかったなあ。

朝食が終わったら、昼ごはんのこと

 さて、しっかり朝食を取った私は、今度はイーストコースト・シーフードセンターに向かうことにしました。お昼にチリクラブを食べるためです。そう、もう昼ごはんのことを考えているのです(笑)。この旅はずっとそうでした。イーストコースト・シーフードセンターはチャンギ空港に近い郊外にあるため、いつもならタクシーを使います。しかし、今回はお昼まで時間があるので、MRTとバスを乗り継いでいきます。

 ブギスからバスの出ているブドゥッまでは乗り継ぎなしでMRTで15分ほどの距離。余談ですが、このMRTの車内放送ってものすごく合成音っぽいんですよ。女性の声なんですが「Next stop…、is Orchard」といういい方が近未来的な独特の響きがあって、シンガポールが懐かしくなると、私はよくこの合成音の車内放送を真似していました。 
 
 久しぶりに乗ったMRTは、また進化していました。以前からキップがカード状にはなっていたのですが、なんだかそのカードがいやにぶ厚くなっています。よくわからないまま改札口まで来て立ち往生してしまいました。カードを差し込む口がない! どーすんのと思ってまわりを見渡してみたら、みーんなタッチ&ゴー。そうです、シンガポールのMRTは完全にスイカ化(大阪だとイコカ化)していたのです。そのためMRTを降りて改札口を出てもカードが手元に残ってしまうんですが、自動券売機にカードの返還機能があって、その際にもともとチケットを買うときによけいに払わされている1ドルが返金されます。これが旅行者にはとても面倒くさかったです。日常的にMRTを使う地元の人はほんとにスイカとして使うから、そんな手間はいらないですけどね。私もスイカとして使えばよかったかなあ。
 
 私がごぶさたしていた5年間にMRTは走行距離も伸びていて、とうとう市内とチャンギ空港がつながるまでになっていました。私はフライトが深夜と早朝だったのでその恩恵に預かれませんでしたが。とはいっても、シンガポールにおけるMRTカバー率はまだ3割ぐらいじゃないでしょうか。じゃあ、MRTの通っていないところのシンガポール人はどうしているのかというと、バスで動きます。バスルートはまさに国じゅう網の目のようにはりめぐらされていて、多くの市民にとって頼れる足といえばやっぱりバスなのです。





 そのバスに乗るべく私もブドゥッに来た訳ですが、ここのバス・インターチェンジ・ターミナルの隣に結構な大きさのホーカーセンターがあった(写真上)! きゃー、ここいいじゃん。かなりいろいろあるし。「もう、イーストコースト・シーフードセンターに行くのは止めて、ここでお昼にしない?」と内なる声。「いや、最初に決めたことは実行しよう。それにまだお昼までには時間があるし」ともう一人の私。しばらく心の中でせめぎあったあげく、やはりイーストコースト・シーフードセンターに向かうことにしました。チリクラブの誘惑には勝てません。しかし、結局この日私は、このブドゥッのホーカーセンターで遅いお昼を取ることになるのでした(笑)。

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