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第13回
ピーター・アイヴァース
推薦盤「TERMINAL LOVE」

 思えば、物心ついた時から、さみしい話が大好きだった。手塚治虫でも、ハッピーエンドよりは何か悲しい気持ちになってしまうストーリーが好きだったし、破滅型の永井豪の作品はたいがい好きだった。児童小説なら小川未明、新見南吉、テレビもウルトラQなら「あけてくれ」、ウルトラマンなら「故郷は地球」、怪奇大作戦の岸田森、木枯し紋次郎、人造人間キカイダーなど、子供が見ても、希望が本当にないんだとわかるお話は、なんだって好きだった。誰もがウソを言っていたり、ウソしかお知えてくれない十代に、本当のことをお知えてくれていたのは、いつだって悲しい・さみしいお話だった気がする。当然のように、音楽に出会った時も、そういう気配を常に探していたような気がする。
 

 声で選ぶなら、ジャッキー・レヴィン、ルイス・フューレイ、そしてこのピーター・アイヴァースを、選ぶ。声に思い込みをしてもしょうがないが、どう聞いても哀しい気持ちを思い出させてくれるのは、この3人である。日本の教育は楽しいことを善として、悲しいことを悪とする部分があるが、悲しいことは決して悪いことではない。そして悲しいことにしか含まれていない真実や、愛や、信じられるものがある。こういったことはほとんど教育の中では出てこない。だから他人の悲しみがわからない人間が増えてきて、ギスギスすることになる。ルイス・フューレイは新作がほとんど出ない。ピーター・アイヴァースは死んでしまっている。だから新作がちょくちょく出るジャッキー・レヴィンをよく聞くことになるが、ちょっとさみしい時はアイヴァースを聞くようにしている。そうすると、もっと悲しい気持ちになって、そして、救われる気持ちになる。
 

 数年前まで、ピーター・アイヴァースと佐井好子とNEU!がCD化されていないのは世の中間違っている、と思っていたら、2001年には3拍子揃ってしまいそうである。2001年5月にはこのピーター・アイヴァースの2nd「ターミナル・ラヴ」3rd「ピーター・アイヴァース」がCD化されて、新宿のヴァージンメガストアでは新譜コーナーに多数面出してディスプレイされていたりして、まったく面食らった。CD化は画期的なことかもしれないが、そんなに売れるもんでもなかろうに。ヴァージンとかタワーとかは、ラブサイケデリコとか、あゆのベストとか、スピッツとか売っていたらいいんじゃないの。ピーター・アイヴァース並べて、まるで『昔からこの手の音楽を応援してました』的な店構えされたんじゃあ、金のないCD屋はたまんないっす。
 

 で、この「ターミナル・ラブ」は、聞いてもらえばわかる人にはわかる。こんな名盤がなんで今までCD化されなかったのか!と青筋立てるもんでもないし、さりとてあっというまに絶盤・廃盤になるのはさみしいな、って程度かな。NYのホモのシティブルースなんだけど、それだけじゃない、なにかとても悲しくてさみしい気持ちにしてくれるのである。これを聞いてなんとも思わないなら、やっぱりこういう音楽は必要ない人なんだと思う。そういう人には健全で下品な道を歩んでいただきたい。
 

 で、「ターミナル・ラブ」は買うけれど、3rdの「ピーター・アイヴァース」は買わない人も多いみたい。どうせなら両方買っちまいな。売り切れてから「もうあれは入らないんですかねえ」って言うに決まってるんだから、買いなさい。3rdも同じだよ。そして聞き終わった後の「感じ」が大切だから。それでいいのだから。
 

JOJO広重 2001.5.28.



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