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第2回
ギャヴィン・ブライヤーズ
推薦盤「THE SINKING OF THE TITANIC」
 「今夜は死にたいだけなんだ」という歌詞を書いておいてなんだが、死にたい、とはあまり思わない。そりゃあ若かりしころは毎日でも死にたいと思っていたが、40年余も生きていれば、死にたいとか気が狂いたいとは、あまり思わなくなる。そのかわり、気が遠くなりたい、とは思う。死んで解決することなどたかがしれているし、だいたい自殺なんて昔は芸術家の専売特許だったが、今では小中学生のガキか、始末の悪い政治家なんかがするものだ。生きているのに死んでいるようなやつもいっぱいいるし。まあ責任放棄まではしないから、気を遠くにやることくらいはさせてくれ、とは思う。


 ギャヴィン・ブライヤーズの名前を初めて知ったのは1975年にブライアン・イーノがシリーズでリリースした「オブスキュア」だった。その第一弾が、この「THE SINKING OF THE TITANIC」だった。ブライヤーズがデレク・ベイリーらと「ジョセフ・ホルブルック」というジャズ・ユニットをやっていたなんていうことを知ったのは随分あとだったと思う。即興演奏に限界を感じたらしいブライヤーズは、未だCD化されていない名盤「ポーツマス・シンフォニア」を結成。これは素人にクラシックの楽器をもたせ、クラシックやポップスの名曲を演奏させるもので、めちゃくちゃおもしろい。デビッド・カニンガム、スティーヴ・ベレスフォード、デビッド・トゥープなどもポーツマス・シンフォニアの出であるからして、いかにユニークなユニットであったかは理解いただけるだろう。ブライヤーズはその後はちゃんと現代音楽を勉強&自立して、この「THE SINKING〜」以降、立派な現代音楽家として成功するのだ。


 このアルバムはタイトルからわかるように、タイタニック号の沈没がテーマになっている。実際に沈没する際、船上楽団が演奏していたという賛美歌「オータム」と、もう一方の説である「主よ、みもとに近づかん」の「オートン」の2曲を複合し、さらにミュージック・コンクレートを複合した構成で、同旋律をくりかえす手法もあいまって、聞いているうちに沈没するイメージにたっぷり耽溺してしまう。何度聞いても、あきない。いわゆる、私にとって、気を遠いところにもっていってくれる、数少ない音楽である。


 1969年に作られたこの曲は1975年のオブスキュア盤、1990年のクレプスキュール盤、1994年にフィリップ・グラスがプロデュースに加わった盤(現在入手可能な日本盤もこれ)があるが、私は曲の長さがいちばん短いオブスキュア盤が一番気に入っている。


 LPではB面に「JESUS' BLOOD NEVER FAILED ME YET」が収録(CDにも収録されている)。これはある駅で酔浮浪者が何度もこの言葉を繰り返していることを印象的に思ったブライヤーズが曲に仕上げたもの。イエスの血は決して私を見捨てない。この暗示的なセリフがループになってストリングスとともにくりかえされるうちに、つまり、気を遠くしてくれるのである。これも、この声のパートをトム・ウェイツに演らせた長尺版が後年録音されている。


 自分が死ぬ時は、気が遠くなって死にたい。その時にBGMで、このアルバムがかかっていると、良い。


JOJO広重 2001.2.24



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