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第24回
長谷川きよし
推薦盤「NEW BEST」

 長谷川きよしのデビューは1969年くらいだったから、私は小学校4年生くらいだったと思う。デビュー曲「別れのサンバ」がヒットして、テレビの歌謡番組に登場、それを見ていたのを記憶している。母が『この人は目がみえないのにこんなにギターも歌も上手で...』と解説してくれた記憶もある。その美しい歌声、その卓越したギターテクニック、サンバどころかシャンソンからフラメンコ、欧州の民謡までこなすそのセンスのよさは、他の歌謡曲歌手とは一線を画していた。しかし、どうも印象としては「目の見えない器用な歌手」という扱いをうけてきたような気がしてならない。そしてしばらくすると、テレビにはあまり出なくなり、最近では懐メロ番組以外では、長谷川きよしの姿を見ることはなく、ラジオですら歌を聞く機会はほとんどなかった。若い音楽リスナーの多くは、長谷川きよしの名前すら知らないのではないか。
 

 日本はやはりコマーシャルな音楽、つまり売れる音楽以外には非常に冷たい。もちろんパンクやノイズなど、非コマーシャルな音楽が日の目を見ることもあるけれど、それはたいがいが商売になるからである。もしくは自社はマイノリティにも目を向けていますよ、という効果として使われることが多い。非常階段を取り扱っておけば、「非常階段のようなとんでもない音楽もうちは取り上げている、懐の大きな○○である」というわけである。雑誌も、会社も、メディアも。
 

 たとえノイズであっても、話題があったり、それなりに使える部分があったり、なにかしらのコマーシャリズムが介在すれば、それが情報として価値があることになれば、世間が必要とする。しかし長谷川きよしの音楽のように、世間に媚びていない音楽は、往々にして徹底的に無視される。どんなに素晴らしい音でも、歌でも。
 

 現在発売されている長谷川きよしの音源は、60年代〜70年代に録音されたものをベスト盤、復刻盤として紹介しているものがほとんどで、新作や最近のライブを収録したものは皆無である。つまり完全な懐メロ扱いだが、現実は違う。おそらく50才を過ぎているであろうが、声もギター技術も衰えるどころか、ますます至高のレベルへと達しており、小さなホールやライブハウスなどで演奏を継続している。1度見ればわかるが、現在の長谷川きよしの歌もギターも、1960-70年代の彼の演奏の、何倍も何倍も、今の方が凄い。圧倒的である。同じ歌を30年演奏することがこんなにも磨き上げられるものなのかと、背筋がゾッとするほどである。若い方にはぜひ長谷川きよしのライブを1度見ていただきたい。そしてCDはたいがいのお店でほとんど売っていないが、中古でもなんでもよいので、「別れのサンバ」「透明なひとときを」「卒業」の入っているアルバムを聞いて欲しい。この3曲の歌詞は本当に凄い。
 

 先日、吉祥寺でのライブに足を運んだ際、楽屋にお邪魔した。自分の名前を名乗った時、「広重さん?名前を聞いたことがありますよ、最近!」と言われ、なんとも嬉しかった。小学校4年生の時に見た長谷川きよしは繊細で黒い髪の長い青年だったが、そこにいるのはマーチン・レヴに似た、本当に凄い本当の本物の、そして今でも素晴らしい歌を歌う、ひとりの青年だった。
 

JOJO広重 2001.9.23.



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